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» 2007年04月18日 10時30分 UPDATE

金融・経済コラム:「いまさら下方修正」に学ぶIR対応の重要さ

あるITベンチャーが通期の決算予想の大幅下方修正を発表しました。数カ月前の中間決算のときには通期予想は据え置かれていましたが、市場では達成を危ぶんで株価の下落が始まりました。今回はこれを題材に、IR対応について考えてみます。

[保田隆明,ITmedia]

 先日、ドリコムが決算予想の大幅下方修正を発表しました。2007年3月31日で終わる2006年度の売上予想が、当初15億円だったものを8.7億円に42%ダウン、経常利益予想は4億円だったものが、マイナス1.8億円になりました。

 決算発表直前シーズンにはこの業績予想の修正が各企業から相次ぎますが、業績予想修正の発表というのは、特に法的に決められたものではなく、証券取引所の適時開示ルールという規定によって定められています。それによると、売上高で10%、利益で30%を超える業績の変化が予想される場合には、速やかに開示をしなければならない、となっています。

 さて、ドリコムの場合、2006年2月8日に第3四半期までの収益の状況を発表しました。それによると9カ月間の売上高は6億200万円でした。ただ、その時点では年度末の業績予想の数字は当初のものを据え置いています。それは、第4四半期だけで9億円程度の売上を計上することを意味します。前年度の1年間の売上が7億円強でしたので、ひとつの四半期だけで9億円の売上という数字の大きさは際立ちます。

 多くの企業は、第4四半期の売上高がほかの四半期に比べると大きくなりがちですので、同四半期の収益見込みを厚めにする企業が多いですが、それでも、ドリコムの場合はやはりこの第3四半期の業績発表時に、2006年度の決算予想に関しても修正しておくべきだったのではないかと思わざるを得ません。

 ただ、市場ではこの第3四半期の収益状況発表時に、実質的に2006年度の業績予想達成は困難だと理解し、ドリコム株は大量に売られ株価は50%ほどの大幅ダウンとなりました。市場は、おそらくですが、ドリコムの業績に失望したと同時に、業績予想の修正を出さない同社のIR体制に対しても不信を募らせたことだと思います。

 この業績予想の修正というのは非常に見極めが難しく、社内で予算未達になっている場合、再度予算を引き直す必要がありますが、混乱している現場からはいくらの収益なら可能なのかの数字すら見えてこない場合も多々あります。会社全体として予算を修正したくとも、いくらの数字にすればいいか分からない、それゆえに、もう少し社内の現場の状況が見えてきてから予想数値を修正しようということになります。おそらく、ドリコムの場合もそんな感じなのではなかったかと推察します。

 さて、今回2006年度の決算予想の修正を出したのは4月10日でした。市場は、第3四半期の業績発表時にある程度決算予想修正を織り込んではいたものの、株価はまた下落しました。一方、その2日後の4月12日には、ドリコムは、ジェイケンという企業を買収することを発表しました。ジェイケンの2006年3月期決算は、売上高が8.3億円、経常利益は2億円ですので、同社の業績がそのまま順調に推移していると仮定すれば、今回の買収によりドリコムの企業規模は倍増することになります。

 たったの2日違いで悪いリリースとそれを打ち消すようなリリースが出てきたわけですが、適時開示とはその名のとおり、開示する必要が生じたら速やかに開示することとなっていますので、悪いニュースが出た直後にいいニュースが出ることはよくあることです。ただ、同社のIR姿勢に対する不信感が募った状態で一連のリリースを見ると、業績予想下方修正のインパクトを小さくするために、リリースタイミングをこのM&A成立を待っていたのでは、などと勘ぐられる可能性もあります。

 4月初旬の決算予想修正発表はよくあるタイミングですし、M&Aは契約書サインの直前までどうなるか分からないものですので、今回はそのように2つのリリースタイミングを合わせようという動きがあったとは思えません。ただ、一度市場にIR体制に関しての不信感を持たれてしまうと、その後のIRリリースもうがった見方をされることが多く、それは企業にとって大きな損失となってしまいます。IRに対する不信は、積極的なIRで対応するしかありません。来月の決算発表の席で、どれだけ市場と対話の姿勢を見せることができるか、同社にとっては1つのチャレンジ、そして市場はそのIR姿勢に注目することになるのだと思います。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)、『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(共著:ダイヤモンド社)『なぜ株式投資はもうからないのか』(ソフトバンク新書)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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