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楽天・TBSはどこへ行く?金融・経済コラム

» 2007年04月24日 13時00分 公開
[保田隆明,ITmedia]

 楽天がTBSの株式20%の取得を目指して、再度動き出しました。株主総会では三木谷社長と、CCCの増田社長の2人をTBSの社外役員としてノミネートするとのこと。

 同様に、大株主が株主総会で独自の社外役員導入を提案したケースとしては、村上ファンドがニッポン放送株式を大量に取得していた際に、村上氏他計3名を社外役員として選出するようにニッポン放送に求めたケースがあります。このケースでは、結局村上ファンド側の提案は総会直前に取り下げられました。その理由はニッポン放送が独自に社外役員3名を選出するという提案を行ったためでした。村上ファンドはもともとニッポン放送のコーポレートガバナンス強化のために社外役員導入を提案したわけですが、それらが必ずしも村上氏を含む3名である必要ははく、対外的に見て資質に問題ない人が社外役員になってくれるのであればある程度目的は達成ということで、独自提案を引っ込めました。

 これは村上ファンドの提案が、自分たちだけに有利になるような提案ではなかったことを意味します。全ての株主にとってメリットのあるコーポレートガバナンスの強化が目的だったがゆえに、それなりの人達を会社から提案されればそれを受け入れないことには、自らが社外役員になって会社への影響力を引き上げたいという「エゴ」に映る可能性がありました。それを村上ファンドは回避したわけです。

 結果としては、ニッポン放送が独自に選出した社外役員3名は村上ファンドの意向に沿った動きはしてくれませんでしたので、村上ファンドは村上氏を含む3名の選出に固執すべきだったということになるかもしれませんが、しかし、その場合当時のニッポン放送の他の株主がどこまで賛成票を投じたかは、見えない部分が残ったと思います。

 さて、今回の楽天・TBSの件。当時村上ファンドがニッポン放送に対して持っていた持分割合よりも高い持分、しかも、連結決算で持分法の対象となる20%直前までもの高い比率を保有しています。ゆえに完全にパラレルで考えることはできないのですが、同様にTBSがそれなりの人物2名を独自に社外役員として迎えると、カウンターオファーを出してきた場合、楽天はどうするのだろうかと思いました。

 楽天の意向に沿う経営をするかどうかをモニターするため、であれば三木谷社長と増田社長の2人が社外役員になる必要があるでしょう。ただ、TBSが楽天の意向に沿う経営をすることが、他のTBS株主にとってもいいことなのかどうかは分かりません。その判断は、他の株主に委ねられることになります。

 逆に言えば、楽天は三木谷社長と増田社長の2人をTBSの社外役員として迎え入れることが、他のTBS株主にどういうメリットをもたらすことができるのかを見せてあげないと、単に楽天のわがままと映ってしまい株主総会で多数の賛成が得られない可能性があります。

 交渉から1年半が経過したこの案件、楽天がTBS株主に対して明るい未来像を提供できていないことが、本件が前に進まない大きな理由でもあると思いますので、今回の社外役員選出提案に関しても、楽天側がTBS株主に対してどういう訴求を行っていくのか、注目したいと思います。日本では、企業に対して奇襲的に株式を取得した今までの案件では、ほとんどのケースにおいて買収側は最終的に株式を手放しています。過去の事例に倣えば楽天もどこかの段階で株式を手放さざるを得ないということになります……。

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保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)、『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(共著:ダイヤモンド社)『なぜ株式投資はもうからないのか』(ソフトバンク新書)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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