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レコメンデーションの虚実(8)〜株価予測は集合知が衆愚化しない希有なモデルだソーシャルメディア セカンドステージ(1/2 ページ)

» 2007年10月29日 14時00分 公開
[佐々木俊尚,ITmedia]

集合知とはどのようなものか

 ソーシャルを経由したレコメンデーションは、どこまで正確なのだろうか? あるいは言い方を変えれば、ソーシャルによるレコメンデーションが、最も力を発揮するのは、どのようなフィールドなのだろうか?

 その答を見つけ出すためには、集合知のパワーについてじっくりと考えてみる必要がある。そもそも集合知という言葉は、2つの意味を含んでいる。

 (1)ひとりの天才が考えたことよりも、複数の人たちが考えた方が良い結果が出るという「群衆の叡知」(Wisdom of Crowd)を体現したもの

 (2)人々の思考や論理、予想などを集計した統計結果

 (1)と(2)ではかなり位相が異なっている。例えば(1)の群衆の叡知モデルで科学的真理を発見することは可能だが、(2)でそうした真理を見つけ出そうとすると、集合愚に陥ってしまう可能性がある。例えばよく引き合いに出されるのが、ガリレオ・ガリレイの天動説。まだ天動説を人々が信じていた17世紀、もし複数の専門家が集まって徹底的に天動説と地動説を比較して議論していれば、ひょっとしたら地動説が正しいという結論が見出されたかもしれない。これが群衆の叡知モデル。だが人々の当時の一般的な考え方を集計する(2)のアプローチを取れば、おそらく圧倒的多数は天動説支持に回っていたはずだ。つまり(2)のような集合知モデルは、科学的真理を発見する手法としては適さないということになる。

 もう少し(1)と(2)の違いを考えてみよう。表のようになる。

集合知モデル 主なサービス 自動化 コスト 方向性 情報の正確さ
(1)群衆の叡知 Wikipedia、Q&Aコミュニティー しにくい 大きい 拡散していく 衆愚化しにくい
(2)統計結果 ソーシャルブックマーク しやすい 小さい 集約していく 衆愚化しやすい

 ソーシャルレコメンデーションは今のところ、(2)のアプローチが一般的だ。なぜなら消費者個人を相手にするレコメンデーションというサービスでは、(1)の群衆の叡知モデルではコストがかかり、自動化もしにくいから、一般消費者向けの無料サービスには適さないのである。これに対して(2)の統計結果モデルなら、低コストで自動化されたサービスを提供できる。

母集団の巨大化による衆愚化

イラスト

 だが一方で、先ほども書いたように(2)の統計結果モデルは衆愚化しやすい。特に問題なのは、ソーシャルの母集団が大きくなってきたときだ。母集団が巨大化すれば、その衆愚化の可能性はどんどん高くなってしまう。自動化したレコメンデーションを安価に行えるとしても、そのレコメンド内容が誤ってしまう可能性が大きいとすれば、それは結果的には正しいレコメンデーションとは言えない。

 例えば、この連載の第6回で書いたオートキャンプ場の例で考えてみよう。的確なソーシャライズが行なわれて、「直火もOKで、サイトから目の前の渓流で釣りができるというまさに理想的なキャンプ場」という予想もしていなかった素晴らしいレコメンデーションが行なわれればよいが、このようなキャンプ場の情報を持っている人は数少ない。たいていの人は、誰でも知っているような一般的なキャンプ場の情報しか持っていないのだ。

 母集団が大きくなってしまうと、統計結果的なモデルでは「直火もOKで釣りができる」というようなニッチな情報を持っている人は母集団の中に埋もれてしまいがちになる。そうなると、レコメンデーションは衆愚化してしまい、誰でも知っているようなベタなキャンプ場の情報しか勧めてくれなくなってしまう。

 では、母集団のスケールを維持しながら、しかし衆愚化しないような統計結果のレコメンデーションは存在しないのだろうか?

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