コラム
» 2007年11月06日 10時00分 UPDATE

金融・経済コラム:サイバードのMBO――新興企業こそメリットあり

サイバードが10月31日、MBOを実施すると発表しました。9月にかけて新興市場が落ち込んでおり比較的やりやすい環境下ではありますが、収益のブレが大きいネット系企業のMBOということで注目しています。

[保田隆明,ITmedia]

ネット系企業による初の国内MBO

 携帯コンテンツ企業のサイバードホールディングスがMBOをすると発表しました。MBO(Management Buy Out)とは、企業の経営陣が自社を買収することを意味し、ここ数年日本でも登場していました。例えば、ワールド、ポッカ、すかいらーく、キューサイ、レックスホールディングス、サンスターなどがMBOを行っています。

 MBOを行う理由としてよく言われていることは、上場廃止にすることで株主の目を気にせずにリストラに集中することができるということです。株主の視点がますます短期化する中において、短期ではコスト増の痛みを伴うものの中長期では収益向上につながるようなリストラや経営改革を遂行することが困難になっています。経営陣を中心とした、中長期の経営にお付き合いしてくれる株主だけで株式を保有して経営を行い、経営状況が改善されたら再上場するというのがMBOの流れです。

 MBOをすると、企業は借金漬けになります。例えば時価総額100億円の企業をMBOして買収する際は、買収者は90億円は借金で資金調達をすることになります。そして、その90億円の返済は買収後の企業(今回の例ではサイバード)の収益で返済していくことになります。

 したがって、MBOをしやすい業種としにくい業種が存在します。先に挙げたワールドなどの企業はアパレル、飲食、家庭用品など、日々必ず一定の需要が存在する業種であり、日銭が計算しやすい企業ばかりです。MBOで抱える多額の借金を返済するには、こういう将来の収益が読みやすい業種が適しており、逆にインターネット企業のように収益のブレが激しい企業はあまりMBOに向いていないとされています。

 そこに登場したサイバードのMBO。これは、インターネット業界が、収益を生む産業として確立してきた、成熟度合いが増してきたと言えます。同社の場合は、上場して6年経過しており、年間収入も数百億円の規模になっていますので、ネット系企業の中でも比較的収益のブレは小さいでしょう。また、JIMOSという通販企業を傘下に抱えていることにより、単純な携帯コンテンツ企業の場合と比べるとMBOをしやすかったと言えると思いますが、それでもネット系企業でMBOが起こるようになったというのは、注目に値します。

MBOは、新興市場上場企業にこそメリットあり?

 短期視点の株主に気兼ねすることなく、経営改革を行うためのものがMBOであるなら、このMBOはむしろ短期視点の株主が多い新興市場に上場する企業にこそ有益な手法のように思えます。以前、当コラムでも書きましたが、実際、MBOをしたいと思っている新興企業経営陣は少なくないのではないかと思います。ここ1カ月ほどはマザーズ指数が上昇し、新興市場はにわかに活性化していますが、9月にはマザーズ指数が最安値をつけるほど市場は低迷していましたので、サイバードがMBOという選択肢を追求したのも納得できます。

 ただ、新興企業がMBOをするにはジレンマが存在します。1つにはまだ上場してから日が浅いため、何のための上場だったのかと批判されるリスクです。サイバードのMBOの場合も、MBO時の買収株価は過去3カ月間の株価に40%のプレミアムを乗せている水準ですので、一般的に必要とされている買収プレミアムはあるものの、これまでの上場期間の株価に比べると決して高い水準とは言えず、MBOをして株主から逃げるよりは、キチンと株価を元にあった水準に戻すべきではないかという批判もありえます。特に経営陣はMBO前後で変わりませんので、引き続き経営に取り組むなら、なぜ今まで支援してくれた株主のために働かないのだ、という批判です。

 ただ、いくらそのような批判があったところで、企業としては成長性、収益性を高めていく必要があります。短期視点の株主とそのビジョンがどうしても共有できなかったのであれば、MBOという選択肢もやむを得ないでしょう。短期視点でしか企業を見ていない株主の側にも責任があると言えます。

新興市場の回復が続くとMBOしにくくなる

 MBOでは、経営陣は自社の買い手となります。企業を買う場合は、当然ですが安く買いたいと思います。サイバードの場合、最後の1カ月強で株価は回復局面にありましたが、基本的には株価下落局面でのMBOであり、経営陣にとっては比較的安く会社を買うことができたと言えます。しかし、マザーズ指数は最安値から50%も上昇してしまい、MBOをしたいと思っているほかの企業の経営陣にとっては、これ以上株価が回復してしまうと買値が上がってしまい、MBOをしにくくなることになります。

 そういう意味において、サイバードのMBOはベストタイミングで登場したということになるでしょう。年末までに、第二、第三のサイバードがいくつか出てくるのではないかと勝手に予想しています。

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MBO | 経営 | サイバード


保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)、『M&A時代 企業価値のホントの考え方』(共著:ダイヤモンド社)『なぜ株式投資はもうからないのか』(ソフトバンク新書)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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