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コラム
» 2007年01月29日 12時30分 公開

金融・経済コラム:上場ベンチャー企業のMBOの可能性は?

昨年大きく下げた新興市場は、年明けから持ち直しつつあるとはいえまだ弱含みです。この状況で、新興上場企業がMBOするというのは経営の選択肢として面白いのではないでしょうか。

[保田隆明,ITmedia]

 2006年、マザーズ指数は56%の下落でした。2007年年明けは若干相場が持ち直しつつあるようではありますが、依然弱含みな状況です。去年、一昨年に上場したベンチャー企業の中には、株価が上場時の公募価格を下回っているところもあります。これは別にお奨めするわけでも何でもないのですが、それらの企業のMBO(Management Buy Out:経営陣による自社の買収)って、シナリオとしては面白いかもと思いました。

 一般的に、上場時の公募価格は理論的株価です。その後、業績の下方修正をした企業では株価が公募価格を下回るのは当然であり企業特有の事情ですが、昨年のように新興市場自体が大幅下落トレンドにあった場合は、企業としては特に問題がなくとも投資家のセンチメントが悪く、単純に買い需要がないために株が不人気となり、株価が低迷している場合もあります。

 証券取引所の審査を通過して上場したということは、将来の成長性がある企業のはずですので、そういう外的要因によって株価が低迷するのは不運です。もちろん新興市場の株価形成はまだ発展途上であり、さまざまな問題を抱えていることも事実ですが、今回はそれらは無視して話を進めます。

 一度市場から見放された株価が上昇軌道に乗るのはなかなか厳しく、また、せっかく上場したのに企業が新株を発行して資金調達をしようにもままなりません。一方、株主からは公募価格を下回る株価に対する不満、不平が毎日ジャンジャン会社に電話がかかってきて、おちおち経営に専念もできません。

 こういう場合に、企業経営陣がMBOにより一旦株式を買収し、非上場化してしまい経営に専念し、またいい頃合を見計らって再上場をする、そんな動きが出てきたりすると面白いかもと思いました。

 MBOとは、エスタブリッシュ企業群では最近流行っていますが、経営陣が自社を買収し非上場化する動きです。例としては、すかいらーく、ワールド、キューサイ、ポッカなど。そんな中、一時はベンチャー企業の旗手的存在だった牛角を経営するレックス・ホールティングスもMBOを発表しました。一般的に、MBOには、収益が安定している業界が適しており、収益のブレが激しい業界は適していません。上記MBOを行った企業は全て「食べる」、「着る」など人々が日々行う行為に関する企業ですので、ある程度収益は安定します。よって比較的MBOをしやすいと言えます。

 レックスは、売上が急拡大し、6年前の上場時に比べると売上高は10倍、1000億円以上となっていましたので、もはや新興企業の部類ではないのかもしれませんが、上場年数で見るとまだ6年が経ったところでしたので、新興企業と言えなくはないと思います。そんなレックスのMBOは、他のベンチャー企業もがMBOを経営上の戦略として考慮しうることを示したのでしょうか?

 上場して6年でまた非上場になるぐらいなら、どうしてそもそも上場したのだ、株主と馬鹿にしているという批判もあるでしょうから、上場ベンチャー企業がMBOを考えること自体おかしいというご意見もあるでしょう。しかし、企業の経営状況、戦略、そして市場は刻々と変わっていきますので、いくら批判してみたところで、MBOを考える、もしくは希望する企業にそのような考えを持つなと言ってみてもあまり効力はありません。

 レックスの事業は、牛角、コンビニ、スーパーなどですので、業種的にはやはりMBOをやりやすい部類に入ります。一方、新興企業、特にインターネットやIT系では収益のブレが大きい企業が多いこととから、一般的にはMBOには適していません。また、新興企業の株価は将来の成長性を反映してエスタブリッシュ企業の株価よりも割高なことも多いことでも、MBOには不向きです。

 しかし、最近のように、新興市場の相場そのものが大幅に下落しモメンタムを失っている場合は、銘柄によっては株価がエスタブリッシュ企業の株価よりも割安なものもあるでしょうし、そもそも上場して日が浅いのに株価が公募価格を下回っている企業の場合は、株価が理論株価よりも低いということが如実に現れています。もちろんそれは当初の公募価格の算出が適正であったことが大前提ですが……。

 昨年、一昨年上場を果たしたような企業は、上場後の経営はもっと楽観視していたのではないでしょうか? 新興市場はイケイケドンドン、六本木ヒルズに続々と入居する上場ベンチャー企業も後を絶たず、M&Aでガンガン企業規模拡大、そんな状況を見ながらせっせと上場準備をしていましたので、まさか上場後に株主から「どうして株価が公募価格を下回っているんだ」とお叱り電話を受けるだけの日々になるとは想定していなかったでしょう。「こんなんなら上場せずに経営に専念していた方がよかったんじゃない?だって、そもそも資金調達ニーズはほとんどなかったんだし」なんて思う経営者が出てきても不思議ではありません。

 MBOで非上場化した後は、数年後の再上場、もしくは他社への売却を行うことで利益を上げます。よって、再上場できないことにはMBOをする意味がないのですが、ここ数カ月間で新興市場の上場審査が以前に比べると相当厳しくなっているようですので、昨年、一昨年上場できた企業の中にも最近の厳しい基準では上場できていなかったかもしれない企業もあるでしょう。よって、そういう企業をMBOしても、再上場することができないかもしれないので、それだと意味がないのですがね……。

 また、MBOの時の買収資金は、経営者とファンドが出資するお金に、銀行からの融資を足して調達するので、銀行からの融資が受けられないことにはそもそもMBOは成立しないことが多いです。MBO案件への融資という比較的リスクの高い融資は日本の銀行ではまだ新しい分野であり、それを収益のブレが激しそうなインターネット、IT系ベンチャー企業に対して行うということも、まだ想像しにくいので、現実的には難しいとは思います。

 ただ、レックスのMBO、そして低迷する新興市場の相場によって、そのような考えを持つベンチャー経営者がいても不思議ではないなと思ったのでした。企業によっては面白いと思うのですよね、ベンチャー企業のMBO……。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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