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過剰なM&A万歳論にベンチャー企業の勝機アリ金融・経済コラム

» 2007年01月15日 12時00分 公開
[保田隆明,ITmedia]

 年末年始は、いろんなメディアにて大企業からベンチャー企業、さまざまな経営者のコメントなどを拝見することができました。そこで見えたのは、過剰なM&A万歳論です。特に大企業では、かつてはM&Aに対してのアレルギーもあったので、M&Aをむしろ積極的に活用しようという姿勢に転じたのは大いに評価できると思います。ここ数年で日本の経営戦略も変わってきたということでしょう。

 さて、つい数年前を思い返してみると経営者たちは何に光を見出していたかというと、「M&A」の代わりに「ベンチャー」がキーワードになっていました。ベンチャー企業の誕生、育成が日本経済の活性化になるという論調でした。

 その後、たしかに「ベンチャー」は一定の市民権を確立し、日本経済へのポジティブインパクトも生み出しました。しかし、昨年は行き過ぎたベンチャー万歳論の揺り戻しが始まった年でもありました。

 今年以降企業が闇雲に買収を始めるでしょうが、ベンチャーで起こったことと同様に、M&Aも数年後には一度揺り戻しが来るでしょう。その買収金額が高すぎた、また、買収後の企業経営がうまくいかなかったという事例がドンドン出てくるはずです。

 確かにM&Aは企業戦略における重要なツールではありますが、ひとつの企業において年に何件ものM&Aを行うこと、ましてやそれを何年も続けるというのも、やることはできるかもしれませんが、それが効力を持つかと言えばなかなか難しいでしょう。日本電産のような例外を除いては、消化しきれません。もちろん、一発の大きな案件をやることを念頭においての経営者の発言かもしれませんが、大規模M&Aはうまく行かなかった場合は経営に大打撃を与えるリスクも内在しています。

 今は、やっと欧米で日常的な経営戦略ツールであるM&Aが活用できるようになってきたということで盛り上がっているわけです。しかし、それは、企業の値付けをする、買うという行為が一般的になりつつあるだけであり、日本企業はまだまだ皆M&A後の経営に関しては素人です。過去10年ほどでM&Aを行った企業も増加してはいましたが、それらは基本的には不振事業の売却や、やむにやまれず統合した企業、銀行などでした。買ったものを活用して攻めの経営を行うということはやったことありません。以前、攻めのM&Aを日本企業が積極的に行ったのはバブル期ですが、ほぼ全て失敗したことは今更説明の必要もないでしょう。

 金融機関でも、猫も杓子もM&Aアドバイザリーサービスに注力しますと言っていますが、M&Aは企業価値を高めるためのものであり、どうすれば企業価値を高めることができるか、また、そもそも企業価値とはなんなのかを理解できているかどうかも怪しい段階です。全員雪崩を打ってM&Aの真似事に参入するというのはどうも危うい印象です。

 そんなことで、「ちょっと待てよ、What's M&Aってもう一度考えた方がいいのではないかしら」と思わざるにはえないこの新年年明けでした。

 ほかの企業がM&A万歳論に傾倒している今だからこそ、新規事業開発やベンチャーによる躍進が狙えるチャンスだと思います。最近はベンチャー企業でも上場時の記者会見では、資金使途をとしてM&Aを必ず口にしますが、むしろ自社の持つサービスのマーケティングや、新規サービスの開発を重視した方がいいのではないかと思ってしまいます。ベンチャーにとっては、まさに今こそ足元を固めて数年後の飛躍に備えるチャンスだと思います。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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