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2007年、解散するネット系企業が増えるかも……金融・経済コラム

» 2006年12月11日 12時30分 公開
[保田隆明,ITmedia]

 2007年は大学全入時代への突入の年だそうですが、振り返るとAO入試や一芸入試など、ここ10年ほどで大学入試も様変わりしました。そして、ふと気がつけば日本の新興市場というのは、未上場企業を一芸入試で判断する場だったんだな、と理解することができます。

 以前、新興市場の上場基準に売上高10億円を設けてはいかがかというコラムを書きましたが、新興市場では上場基準が緩いため、何か一発サービスや商品で当てれば、上場が可能となっています。あるヒット商品、サービスを生み出したという能力を評価して、今後も魅力的なサービスなり商品なりを作っていくことができるだろうという推測の下で上場させてあげるというのが正確な構図だと思います。

 しかし、どの世界にも一発野郎というのは結構多く存在し、一発当てただけではその後も引き続きヒット商品を生み出せるとは限りません。しかも、近年では、商品、サービスのライフサイクルがドンドンと早くなっています。話題の企業となっているうちに、次のサービス展開への布石を打っておかないと、自社の商品やサービスの旬な時期がすぎてしまい、株価が急降下しかねません。実際、かつて株式市場を賑わしたものの今は株価が低迷しているネット系、携帯系企業を挙げてくださいと言うと、結構な数の企業の名前が上がってくるのではないでしょうか。

 一芸企業を脱皮するには、

  1. 新規サービスを開拓すること
  2. 他の事業(企業)を買収すること

の2つがありますが、多くの企業では、他の企業の買収に生き残り戦略を見出しました。しかし、2006年は、それら多くの企業で買収評価損を計上する動きが見られます。買収時に支払った金額が大きすぎました、ということです。せっかく株式上場で得た軍資金を無駄遣いしてしまったわけです。

 そんな経営に投資家が嫌気がさすと、株価は当然ドンドンと下がっていきます。すると、せっかく株式上場を果たしたにもかかわらず、株式による資金調達が実質的にできなくなってしまい買収資金が尽きてしまいますし、株式交換でのM&Aも相手側にとって魅力的でなくなるので難しくなるでしょう。

 すると残る成長戦略は、社内で新規サービスを発掘することになるのでしょうが、これに関してはなかなかいい先例がいません。なぜだろう、と考えてみると、そこには新興市場の存在と、人材流動化の2つの時代的要因があります。

 かつては、ストックオプションや株式の付与により、魅力的な人材を社内にとどめておくこともできましたが、ストックオプションは費用計上しないといけなくなりましたし、そもそも株価が低迷してしまったのでは魅力がありません。

 新規サービスを立ち上げたいと思うような人材は、企業内に残ることはなく外部に出て行ってしまい、自分たちで会社を興し、その企業を一芸入試で上場させれば自分たちの懐に大金が入ってくるわけです。よって、企業内に残ってサラリーマンとして企業のためにせっせと新サービスを開発しようとは思わないでしょう。新興市場の恩恵を受けて上場を果たした企業が、新興市場の存在によって、社内で新規サービスを立ち上げる人材を保持できないというのはなんとも因果なものです。

 株式上場したときにもてはやされたサービス、商品はもはや寿命を向かえ収益に貢献しない、そして、株価低迷によりM&Aもできず、新規サービスも開発できず……。そうなると、残る道は会社解散です。

 以前であれば、「社員のために会社を何とか存続させよう」と頑張ったでしょうが、人材流動化の時代ですので、社員は会社の存続に自分の人生を託すのではなく、あっさりと次々と転職していくでしょう。そして会社は徐々にもぬけの殻状態になっていきます。それでも、ネット系企業では、銀行からあまりお金を借りていない企業も多いですので、特に放っておいても倒産はしないでしょう。その行く果ては、ただ、単に存在するだけの会社。株式市場からも見放され、誰も株式を売買しない。誰も売買しないから、株主が株式を売りたくても売れなくなり。そして、最終的には、現金のみが残った企業。そんな会社を経営していてもつまらないから、社長も経営陣ももうみんな辞めたい! となる。残るは、会社の残余財産を株主に分配して解散なんて企業も出てくるかもしれません。

 一方、そのような企業が反面教師となり、これから上場を目指す企業は上場直後から新規サービスの立ち上げ、他社を買収に奔走することになるでしょう。したがって、企業買収の流れは引き続き加速するものと思われます。

 このように、2007年は会社解散と引き続き旺盛なM&Aの両方が混在する1年となりそうです。

 ダークホース的流れとしては、上場時から「うちの企業は5年後には解散します」と宣言して上場するような企業が出てきたり……(笑)。もちろんそんな会社の株は誰も購入しませんので、上場はできませんが、「企業の寿命30年説」から20年余り経ちましたが、その寿命を見直す時が来つつあるかもしれません。

保田隆明氏のプロフィール

リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/


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