ネット企業では事業スワップというM&Aの手法が、使い方によっては面白いのではないかと思います。
例えば、フリーメール事業とブログサービス事業を行っているA社と、ショッピングモール事業と求人サイト事業を抱えるB社が存在したとします。A社のフリーメール事業は、規模が不十分で、そろそろサービスの停止を考えつつある状況、一方B社のショッピングモール事業も他の大手既存サービスに太刀打ちできない状況で手詰まり感満載。しかし、A社にとってはそんなB社の保有するショッピングモール事業が、そして、B社にとってはA社の抱えるフリーメール事業が「少し」魅力的に見えたとします。
でも、わざわざお金を支払ってまで買収したいとは思わない。そんなときに、A社のフリーメール事業とB社のショッピングモール事業を交換することで、実質的にM&Aを実行することが可能です。このように、事業同士の交換でM&Aを行うことを事業スワップと言います。
現実では、両社がお互いに欲しい事業を保有している状況はほとんど存在しないことと、手続きが面倒ということで、事業スワップが使われるケースは、いわゆるエスタブリッシュ企業ではほとんどありません。
しかし、ネット企業ではアリな手法ではないかと最近思います。というのは、ネット企業ではいろんなサービスやサイトを「とりあえず」はじめてみることがよくあります。しかし、サービスをいざ開始したものの大した結果が出ず、その後だらだらと保有しているものもあります。やめるにやめられない状況です。
他社の中には、そんなサービスをわざわざ現金で買収するほど欲しいわけではないけど、自社の不要資産との交換で買えるのであれば、ぜひ買いたい、と思う企業もあるでしょう。
エスタブリッシュ企業であれば、1つのサービスのウラにはある程度のリソースがついてしまっていることがほとんどでしょうが、ネットサービスの場合、社内の誰か1人が片手まで対応しているケースもままあります。したがって手離れもしやすいでしょう。
「わざわざ買うほどではないけども、自社の不要資産との交換なら」、こういう発想のもと、最初は本当に人気のないサービスを交換に出したのに、交換を続けていった結果最終的に手に入れたサイトが後日大ヒットした、なんていうわらしべ長者企業が登場したりするかもしれません。
2007年は、ますますネット企業間のM&Aも増加していくことと思われます。また、新サービスの立ち上げも引き続き活発に行われるでしょう。その一方で、自社の保有する不要資産の見直しも進める必要があり、交換価値のあるものをこのように活用することはアリかと思われます。そして、交換価値がないものは、さっさと終了する。ネット企業ではリストラという言葉は今まで比較的他人事でしたが、徐々にサービスレベルでのリストラを進めて、社内のリソースの効率的活用を考える必要がある企業も多くなっていると思われます。
アメリカでは一般消費者向けの物々交換サイトが人気のようですが、ネット企業向けのサービス交換サイトなんて作ってみるのはいかがでしょうか?
リーマン・ブラザーズ証券、UBS証券にてM&Aアドバイザリー、資金調達案件を担当。2004年春にソーシャルネットワーキングサイト運営会社を起業。同事業譲渡後、ベンチャーキャピタル業に従事。2006年1月よりワクワク経済研究所LLP代表パートナー。現在は、テレビなど各種メディアで株式・経済・金融に関するコメンテーターとして活動。著書:『図解 株式市場とM&A』(翔泳社)、『恋する株式投資入門』(青春出版社)、『投資事業組合とは何か』(共著:ダイヤモンド社)、『投資銀行青春白書』(ダイヤモンド社)、『OL涼子の株式ダイアリー―恋もストップ高!』(共著:幻冬舎)、『口コミ2.0〜正直マーケティングのすすめ〜』(共著:明日香出版社)。ブログはhttp://wkwk.tv/chou/
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