コラム
» 2008年03月28日 14時30分 UPDATE

科学なニュースとニュースの科学:クルマの渋滞はなぜ起こる?

道路におけるクルマの渋滞は車線減少や事故見物などで起こるとされてきましたが、直接の原因がなくてもただクルマの数が増えただけで渋滞が発生する、という予測を実験によって確認できたとする論文が発表されました。

[堺三保,ITmedia]

 筆者は今ロサンゼルスに住んでいて、朝夕の高速道路の大渋滞によく悩まされてるんだけど、この状況は東京の首都高でも相変わらずなんじゃないかと思う。

 たぶん東京よりクルマの台数も多いんだろうけど、ロサンゼルスの高速道路は首都高よりも全然車線数も多いし、料金所もないっていうのに、なんでああなっちゃうんだろう、とかっていつも不思議だったのだ。

 昔は、渋滞は「ボトルネック」と呼ばれる何らかの直接的な要因によって引き起こされるものだと考えられていた。つまり、坂、車線の合流や減少、もしくは事故といったものだ。

 でも実際には、そういう原因が見あたらない場所でも、渋滞は頻繁に起こると考えられている。

 つまり、筆者の疑問ははなから見当違いだったんだよね。だって、「渋滞は走っているクルマの台数が増えて、道路上の密度が増せば、他に原因がなくても自然に発生する」ってことらしいんだから。

 実は先日、それを実際に実験して確認したという記事が、先日新聞各紙に掲載されたのだ。

 これは、名古屋大学情報科学研究科の杉山雄規教授を中心に、大阪大学サイバーメディアセンターの菊池誠教授ら、様々な大学の研究チームが集まって実施したもの。

 まず、大学の敷地内に、1周ほぼ230メートルの円を描いた。そして、これを車線に見たて、乗用車を時速30キロで走らせたというのだ。熟練したドライバーが円の上を走るだけなので、渋滞を起こす直接的な原因となるボトルネックは、存在しないというわけだ。

 実験の前に行ったシミュレーションでは、クルマが約20台を超えると渋滞が発生するという予測が出たので、22台走らせてみたという。

 その結果は、「最初は約10メートルの車間距離を保って走行したが、数分たつと流れの悪くなる部分が現れ、やがて4、5台は一瞬、完全に止まるようになった。前の車両が動けば再び走り出すが、渋滞部分はクルマの流れと逆方向に順々に後送りされ、時速20キロほどで後方に向けて移動した」ということで、何の原因も見あたらない状態でも、クルマの渋滞は起こることが見事に実証されたのである。

 この実験の様子を撮ったビデオは、以下のサイトから論文と一緒にダウンロードできるそうなので、興味のある人はチェックしてみて欲しい。

Traffic jams without bottlenecks--experimental evidence for the physical mechanism of the formation of a jam(New Journal of Physics)

イラスト

 渋滞を含む「交通流」の研究は、自動車が普及し始めた50年代から始まったが、当時の計算機環境では、1台1台のクルマの動きを追うような大規模なシミュレーションはおこなわれなかった。それが、90年代以降、コンピュータの性能向上を背景に、直接的なシミュレーションを用いた研究が盛んになったという。

 今回の実験前の予測も、そういったシミュレーションによって出されたものだ。こうしたシミュレーションの計算の元となる数理モデルは、微分方程式、セルオートマトン、結合写像など、何種類も提案されているが、どのモデルを使って計算しても結論は同じで、「渋滞とは“相転移”現象だ」というのである。

 いきなり「相転移」とかって言われると、面食らっちゃうかもしれないけど、実は「相転移」そのものは我々が日頃よく目にしている現象だ。

 相転移というのは、物質の状態が、外的な要因によって、ある「相」から別の「相」に変化すること。例えば、氷が融けて水になったり、砂糖が水の中に溶け込んだり、アルコールが蒸発したり、塩が凝固したりというような現象は、すべて「相転移」なのだ。

 上記のような現象は、「温度」が相転移の引き金になってるけど、クルマの渋滞の場合、相転移の引き金になるのは、クルマの「密度」なのだという。

 つまり、一定空間を占めるクルマの台数が一定数を超えると、とたんに渋滞が起こりやすくなる。つまり、クルマが密集して走っている道路上では、他に何の原因もなくても、渋滞が起こりやすいということなのだ。

 ここでおもしろいのは、渋滞と非渋滞というのは、程度の差とかじゃなくて、根本的に質の違う「まったく別の状態」だってこと。

 非渋滞が水だとしたら、渋滞はまさに氷みたいなもんなのだ。

 というわけで、「渋滞」の原因については解明されてるらしいんだけど、じゃあ、どうしたら「渋滞を解消できるか」って話になると、これはなかなか難しいよね。なんせ、走ってるクルマの台数が問題なんだから、道路をいくら改良しても、渋滞するときは渋滞するってことだから。

 というわけで、今度渋滞に巻き込まれたときは、「これは誰のせいでもない。そのうちなんとかなる」と自分に言い聞かせてみたい。いや、だからって納得してじっと我慢してるなんてできないけどね(笑)。

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堺三保氏のプロフィール

作家/脚本家/翻訳家/批評家。

1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。最近の仕事では、『ダイ・ハード4.0』(翻訳:扶桑社)がある。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。

ブログは堺三保の「人生は四十一から」


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