この1月末に、インド東部の西ベンガル州とその隣に位置するバングラデシュで、ニワトリの鳥インフルエンザが急拡大しているというニュースが一斉に報じられた。
インド政府は、鶏など210万羽以上の殺処分を進めているが、農家などの拒否反応が強くて、作業が難航しているらしい。
一方、インドネシアでは、保健省が2月1日、鳥インフルエンザで新たに31歳の女性が死亡したと発表した。インドネシアの鳥インフルエンザによる死者はこれで102人となった。これは現在、世界最多の死者数である。(編集部注:18日現在では105人)
鳥インフルエンザの人間への感染例が報告されはじめて以来、「パンデミック」発生の危険性が取りざたされている。「パンデミック」とは、ある感染症が世界的に流行することを意味する医学用語で、日本語では「感染爆発」ともいう。
過去のパンデミックで有名なものは、なんといっても14世紀にヨーロッパで流行したペストだろう。このときは、当時のヨーロッパの人口の3分の1以上にあたる約2000万人が死亡したと言われてている。
また、1918年から19年にかけて全世界に広まり、4000万人以上もの死者を出した(日本でも40万人近くが死亡している)と言われている「スペインかぜ」も有名だが、その正体はA型インフルエンザと呼ばれるインフルエンザウイルスによる感染症だった。
インフルエンザによるパンデミックは、その後も1957〜58年と68〜69年の2度起こっており、スペインかぜほどの規模ではないにしても、それぞれ200万および100万人規模の死亡者を出している。
最近では、インフルエンザというと、毎年のように取りざたされるわりには被害が少なく、カゼの一種のように軽く考えている人も多いかもしれないが、インフルエンザと一口に言ってもいくつもの種類があり、毎年流行しているものは「季節性インフルエンザ」といって、「パンデミックインフルエンザ」とは別物であり、ヒトに完全に適応して、共存に近い関係を保っているため、他の原因(別の病気があるとか、高齢で抵抗力が弱っているとか)がない限り、普通は感染しても死亡するようなことはない。
ところが、「パンデミックインフルエンザ」のほうは、過去の3度の事例からも分かるとおり、大量の死者(その中には健康な成人が含まれる)を出す、非常に危険な感染症なのだ。
パンデミックインフルエンザというのは、通常のインフルエンザと違う、新種のインフルエンザが突然発生した「新型インフルエンザ」のことでもある。
厚生労働省の「新型インフルエンザ対策報告書」(2004年8月)の「新型インフルエンザ」の定義には「過去数十年間にヒトが経験したことがないHAまたはNA亜型のウイルスがヒトの間で伝播して、インフルエンザの流行を起こした時、これを新型インフルエンザウイルスとよぶ」とある。
この「過去数十年間にヒトが経験したことがない」うんぬんというのは、どういうことかというと、要は、元々は人間以外の動物のあいだではやっていたインフルエンザウイルスが、突然変異を起こして、ヒトの体内でも増えることができるようになり、ヒトからヒトへと感染できるようになることを指している。
普通、ウイルスによる感染症は、それぞれ固有の動物(種)にのみ起こるもので、他の種には関係なかったりするんだけど、ウイルスは一方で突然変異も起こしやすいもので、それによって他の種にも影響を及ぼす新種ができることがある。そうなると、今までまったく縁がなかった病気にかかることになるわけで、免疫もろくになかったりするから、とたんに大きな被害が出てしまう。これがパンデミックの仕組みというわけだ。
インフルエンザにおいては、これまでの新型インフルエンザウイルスはすべて鳥のインフルエンザウイルスが変異して人間に感染するようになったものだと考えられている。
だから、現在大流行している鳥インフルエンザに対する警戒が大きく報じられているのだ(ちなみに、冒頭で人間の感染死亡者が出ていることについて書いたけど、それは鶏からヒトに感染した事例で、今のところ、ヒトからヒトにどんどん感染するようには、まだなっていない)。
昔と違って、ワクチンや抗インフルエンザ薬の開発、感染を防ぐための衛生に関する知識などなど、新型ウイルスに対する備えはずいぶん進歩したけど、その分、ジェット機を筆頭とした交通機関の発達によって、世界規模での人の移動も、昔とは比べものにならないくらい高速かつ大規模化しているから、ひとたびパンデミックインフルエンザが発生した場合、急速に世界中に伝播して、大きな被害を出すことが予想されている。
というわけで、今回は思いきり脅かしてしまったけど、次回は、それじゃ鳥インフルエンザの危険性は今どれくらいなのか、とか、インフルエンザが流行りだしたら、まず何に気をつけるべきか、などについて書いてみたい。
作家/脚本家/翻訳家/批評家。
1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。最近の仕事では、『ダイ・ハード4.0』(翻訳:扶桑社)がある。仕事一覧はURLを参照されたし。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。
ブログは堺三保の「人生は四十一から」。
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