前回は、新型インフルエンザによるパンデミック(感染爆発)がなぜ恐いのかについて紹介したけど、それじゃ、今話題になっている鳥インフルエンザウイルスが、ほんとのところ、どの程度危険なのか、今回はそこのところについて書いてみたい。
前回(その1)も書いたけど、鳥インフルエンザウイルスが怖いのは、それが突然変異を起こして、人間にも感染するタイプの新型ウイルスになることだ。
逆に言うと、普通、人間は鳥のインフルエンザウイルスにはかからないということになる。
これは、鳥のウイルスを細胞内に取り込む受容体が人にはないため、人間の体内では鳥のインフルエンザウイルスは増殖できないからだと考えられていた。
ところが、今話題になっている鳥インフルエンザウイルス(H5N1ウイルス)は、人間への感染が確認されていて、香港、ベトナム、タイなど、各地で人への感染例が報告されている。しかも、その中には死亡例も含まれているのだ。
最近の研究で分かったことだけど、実は人間も、肺の奥などに、鳥のウイルスを取り込む受容体が、少数ではあるが存在するらしい。
そのため、鳥インフルエンザウイルスに感染して死んだ鳥に直接触るなんていったことをした場合、人間にも感染する可能性があるらしいのだ。
つまり、典型的な例としては、ニワトリを飼ってる農家の人が、インフルエンザにかかって死んじゃったニワトリを処分してるときに、自分もかかっちゃうなんてケースだろう。
さらには、鳥インフルエンザウイルスの患者を看病してる人にまで感染しちゃった例が、中国やインドネシアでは報告されている。
でも、だからといって、今にも世界的な感染爆発(パンデミック)が起こるんじゃないかとパニックを起こす必要は、今のところ、まだない。
上記の鳥――人感染例も人――人感染例も、いずれも患者との濃密な接触があった場合に限られているからだ。
つまり、インフルエンザウイルス自体が、人に感染する新型に突然変異しちゃったわけじゃなくて、あくまで人の側の鳥ウイルスを取り込んじゃう受容体が、鳥のウイルスに反応しちゃった例が確認されてるだけだってこと。
まだ、本格的なパンデミックが起こるには、「鳥インフルエンザウイルスが突然変異を起こして、新種の人インフルエンザウイルスになる」という最後の1ステップが残っているのだ。
世界保健機関(WHO)は、鳥インフルエンザの深刻さを知らせるための制度として、6つのフェーズからなるパンデミック警報を設置している。
ひとつのフェーズから次のフェーズへの移行は、インフルエンザの疫学的動向や、現在循環している(流行している)ウイルスの特徴といったいくつかの要素によって規定され、WHOの事務局長によって行われる。
これによれば、世界は現在フェーズ3にあると考えられている。
このフェーズは、「新しい亜型ウイルスによるヒト症例がみられるが、効率よく、持続した伝播はヒトの間にはみられていない」と定義されている。
この警報がフェーズ4(人-人感染が増加している証拠がある状態)以上に上がったら、そのときこそ、警戒が必要だろう。
じゃあ、予防はどうすればいいのか?
実はこれは簡単。現状、インフルエンザウイルスは空気感染しない。あくまでも唾液や皮膚との接触によって起こるので、普通のかぜ同様、手洗いとうがい、そして実際に流行し始めたときは、外出時のマスク着用が、かなり効果的なのだ。
読者の方から、「インフルエンザは空気感染します。インフルエンザは、患者のくしゃみなどで外に出たウイルスが、飛沫に含まれて飛散し、鼻やのどなどから体内に吸い込まれることによって感染します。直接吸い込む場合と咳をし直後短時間乾燥した空気で粒子化したウイルスが空気中を漂っているうちに吸い込んでしまう場合があります」というご指摘がありました。
本文で「唾液」と書いたのは、この飛沫感染を念頭においていたんですが、そこの説明がすっぽりと抜け落ちていました。
ご指摘の通り、感染者がくしゃみや咳をすることによって、そのつばが飛んだとき、それに混じっていたウイルスを吸い込んじゃって感染することがあります。これを「飛沫感染」といって、当然ながら空気感染と違って到達距離は短いため、マスクをして、手洗いをきちんとしていればほぼ大丈夫です。
なお、ここで言っている「空気感染」とは、ウイルスが単体で空気中を漂うことによって感染経路が広がることを指しています。この場合、呼吸をすることによって感染が広まってしまうので、外出時のマスク着用や手洗い励行では感染の拡大を防ぎきれない可能性が大変高くなります。
言葉が足りなくてすみませんでした。
あと、日本人にありがちなのは、自分がインフルエンザにかかってるのに、ちゃんと医者に行って診断を受けずに、かぜだと思いこんでムリして登校したり出勤したりすること。これは、本人の健康だけじゃなく、まわりの人にうつしてしまう危険性のあるはた迷惑な行為なので、絶対にやめてほしいもの。とにかく、かぜにしてはひどいなと思ったら、まず医者にいくこと。
あわてずさわがず、でも、最悪の事態は常に予想して、適切な対処をしたいものである。
作家/脚本家/翻訳家/批評家。
1963年、大阪生。関西大学大学院工学研究科電子工学専攻博士課程前期修了(工学修士)。NTTデータ通信に勤務中の1990年頃より執筆活動を始め、94年に文筆専業となる。得意なフィールドはSF、ミステリ等。アメリカのテレビドラマとコミックスについては特に詳しい。SF設定及びシナリオライターとして参加したテレビアニメ作品多数。最近の仕事では、『ダイ・ハード4.0』(翻訳:扶桑社)がある。2007年1月より、USCこと南カリフォルニア大学大学院映画学部のfilm productionコースに留学中。目標は日米両国で仕事ができる映像演出家。
ブログは堺三保の「人生は四十一から」。
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