米Appleの謎の新プロジェクトは、信じられないほど素晴らしい新しい生産ラインなのかもしれない。ただし、タイミングは最悪だ。
この週末は9to5Macに掲載された注目の記事に関するうわさで持ち切りだった。それによれば、Appleはノート型Mac向けの風変わりで革新的な製造プロセスを発表する予定らしい。これはものすごいうわさであり、にわかに信じられるものではない。
9to5Macのセス・ワイントラウブ氏はこの新しいプロセスについて「Appleにとってこの10年間で最大の革新の1つ」と説明している。えっ、本当に? 同氏は10月4日付でブログに次のように記している。
MacBookの製造プロセスはこれまでFoxconnをはじめとする中国や台湾の製造メーカー各社にアウトソースされてきた。だがAppleはそれを自社で行おうとしている。同社はここ数年間、まったく新しい製造プロセスの開発に取り組んできた。レーザーとウォータージェットを使って、れんが(brick)のような形のアルミニウムの塊からMacBookを削り出すというものだ。
れんがだって? 「そう、これはわれわれにもちょっとクレイジーに思えた」と認めながらも、ワイントラウブ氏は次のように語っている。「だが、これは確かな筋からの情報だ。だから、黙ってわれわれの話を聞いてほしい。この情報筋によれば、Appleは自動車王のヘンリー・フォード氏ですら自慢に思うような製造プロセスを開発したという話だ」
この製造プロセスはつまり、アルミニウムの塊から、より魅力的なデザインとシームレスなケースを形作ろうというものなのだろう。でも、繰り返すが、れんがだって?
Appleのスティーブ・ジョブズCEOと四角い形と言えば? 確かに、初代MacintoshとNeXTコンピュータは角ばっていた。その後、不運な「Power Mac G4 Cube」が投入されたが、売り上げが振るわず、Appleの株価は8年前に50%暴落した。そして今また、れんがだって?
Appleは2009会計年度の粗利率について「5%ほど減少し30%程度になりそうだ」と警告を発したが(同社はこの9月30日に2008会計年度を終えたところ)、新しい製造プロセスの設置――と、そこでのトレンディーで新しいノート型Macの製造――というシナリオは、確かに粗利率縮小見通しの説明にはなりそうだ。
製造設備について気にする人などほとんどいない。Intelは何年も前から素晴らしい製造工場を有しているが、「だから何?」って話だろう。デジタルカメラなどは、こうした社内の事情を大抵の人はほとんど気にしないものだということを示す格好の例だ。キヤノンは独自にカメラセンサーを開発しているが、そのほかのほとんどのデジタルカメラメーカーはソニーに外注している。キヤノンは優れたセンサーを生産しているが、競合製品との差別化要因としてその点を気に留める人などいるだろうか? そもそも、その事実を知っている人がどれだけいるだろう?
わたしには、Appleのクールだがコストの掛かる製造プロセスを投資家が歓迎するとは思えない。なにしろ、アジアのアウトソーシングは安価で効率も良いのだから。今回のうわさが本当だとしたら、市場でどのように受け止められるかという点で、BrickはCubeの二の舞になるのではないだろうか? Appleにとってさらに大きな問題はタイミングの悪さだ。タイミングは最悪であり、しかも奇妙なことにどこかしら周期的でもある。Appleは2000年夏にトレンディーな新製品としてCubeを発表、確かに素晴らしい製品に思えたが、タイミングが悪かった。2000年下半期には、景気後退の影響でPC全般の売れ行きが鈍り、チャンネルの在庫が膨れ、AppleやWindows PCメーカー各社は業績の下方修正を余儀なくされた。2000年9月28日には、Appleの業績警告を受けて、同社の株価は急落、53ドル50セントだった株価が翌日の取引開始直後には28ドル前後まで値を下げた。
Appleの歴史がまた繰り返されようとしているようだ。Appleの株価が最後の危機を迎えてから8年、同社の株価は先週再び18%近く下落し、22ドル98セント安の105ドル26セントまで値を下げた。だが3日の取引終了時には事態はさらに悪化し、Apple株は97ドル7セントまで下がった。今年8月13日にはAppleの時価総額は1588億4000万ドルと、一時的ながらもGoogleの時価総額を上回ったが、先週3日の取引終了時にはそれが859億9000万ドルまで落ち込んだ。
先行きの不透明感や景気後退が再びIT業界を襲っていることを考慮しても、Appleのタイミングは良いとは言えない。Apple株が急落し、景気後退の局面を迎えた今、投資家は恐らく、利益幅を削ることになる新しい製造プロセスの導入を好意的には受け止めないだろう。ハイテク製品市況も、2008年の年末商戦は2000年と同じ様相を呈しつつある。それは決して良いものではない。
8年前にCubeをリリースしたときには、Appleは上り調子にあった。同社の株価は好調に推移し、利益も堅実で、投資家や世間の評価も全般に良好だった。最近のAppleを取り巻く状況も、先週に入り2発の打撃を受けるまでは、まさに同じような感じだった。だが先週、NYダウ平均株価は777ドル安という過去最大の下げ幅を記録し、2人の著名な金融アナリストがApple株の投資判断を格下げするという事態が発生した。
それにしても、れんがというのは信じ難い。恐らく、ただのデマだろう。それなら、Appleにとっても問題ない。簡単に否定できるうわさだ。そもそも、一体どうすれば製造工場を隠したりできるだろう? とはいえ、ワイントラウブ氏にはこの奇妙な記事を信じさせるに足る十分な実績がある。このうわさの信頼性に若干無理がある点は同氏も認めており、ブログに次のように記している。「信じない人も多いであろうことは分かっている。だが、もう数週間はわれわれの情報に注目していてほしい。このものすごいうわさについて、いろいろと公開していくつもりだ。こうご期待。:D」
「いろいろと公開していくつもり(a lot on the line)」というのは、「生産ライン(production line)」とかけた駄じゃれだったのだろうか?
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