Windows7からWindows XPへのダウングレード権が提供されるというのは、それほど驚くべきことではない。それなのになぜ、それが突然ニュースになっているのだろう?
わたしは4月4日、米MicrosoftがWindows XP販売ライセンスの提供期限を2010年まで延長するという件に関するAppleInsiderの記事を目にした。「恐らく誰かがうっかり昔の記事を再掲載してしまったのだろう」と最初は思った。だってMicrosoftは2008年4月3日に既にWindows XP販売ライセンスの提供期限を2010年まで延長しているのだから。
週明けの6日には、この延長の話があちこちで話題になった。でも、本当にこれは延長なのだろうか? Microsoftは1年前、Windows XP Homeの販売ライセンスの提供期限をNetbook(ミニノートPC)向けに限って暫定的に2010年6月30日まで延長した。今回AppleInsiderが報じているのは、2010年4月30日までの延長についてだ。もしかするとNetbookの話なのかもしれないが、でも記事にははっきりダウングレード権と書かれている。どちらだろうと構わない。Netbook限定のライセンスは既に延長されているのだから。週末に報じられた件は実際のところ、延長のニュースではない。
大規模企業にとって恐らくもっと重要なのは、OSのサポートが来週で終了するという点だ。MicrosoftのSupport Lifecycleサイトによると、Windows XPのメインストリームサポートはすべてのエディションについて4月14日で終了することになっている。ただし追加料金を支払えば、延長サポートが2014年8月まで提供される。となると、今後もWindows XPの導入を続けていっても何となく大丈夫なような気がしてくる。
AppleInsiderには次のように書かれている。
AppleInsiderがHewlett-Packard(HP)の社内関係者から得た独占情報によると、Microsoftは同社に対し、リリースから約8年となるWindows XPをあともう1年、Windows 7の代わりに同社の企業向けデスクトップやワークステーション、ノートPCに搭載して販売することを認めたという。
この延長はMicrosoftにとっては嬉しいことではない。関係者から入手した内部メモには次のように記されている。「Microsoftが依然としてWindows XP Professional(XP Pro)のメインストリームサポートを2009年4月14日で打ち切る方針であること、そしてExtended Hotfix延長サポート契約を交わしていない顧客については、その日以降、OSのセキュリティアップデートのみを提供する方針であるということを顧客にあらためて理解してもらうことが重要だ。XP Proの延長サポートは2014年4月8日で終了する」
この記事で、Microsoftのあとに続くbe動詞が「are」になっているということは、このメモは欧州で配られたものかもしれない。あるいは、AppleInsiderが普段の表記ルールに従い、「is」を「are」に直しただけかもしれないが。AppleInsiderには、Apple関連の報道で優れた実績がある。だが恐らく、Microsoftはまだ同サイトの得意分野ではないのだろう。特にライセンスの問題はスタート地点にはふさわしくない。Microsoftのライセンス体系はAppleのものと比べてはるかに煩雑だ。
Microsoftは以前から、ダウングレード権については2種類の選択肢を提供している。Windows VistaやWindows 7より前からだ。1つ目の選択肢は、ボリュームライセンス契約を結んだ顧客は既存のどのバージョンのWindowsにでもダウングレードできるというもの。希望とあらば、どんなに古いバージョンでもかまわない。Windowsの古いバージョンには、開発者もアクセスできる。Microsoft Developer Networkでは、Windows 3.1までさかのぼってダウンロードが可能だ。2つ目は、ユーザーにダウングレード権を付与するという選択肢だ。Vistaに関しては、BusinessエディションとUltimateエディションがその対象となっている。わたしが買ったソニーのVAIO VGN-Z590には、XP Proダウングレード用ディスクが付いていた。わたしは要らなかったのだが、望むと望まざるとにかかわらず付いていたのだ。
たとえ1年とはいえ、MicrosoftがWindows 7の出荷後もダウングレード権を提供することを嫌がる理由はない。2つ前のバージョンへのダウングレード権を提供するのも、Microsoftにとって前例のないことではない。むしろ、ほかの方針を採ったりすれば、Microsoftは顧客サービスをめぐり大失態を犯すことになりかねないだろう。
アナリストによると、2008年末までにWindows Vistaを導入済みの大規模企業は全体の約10%にすぎないという。Windowsの現在主流のバージョンはXPだ。多くの大規模企業は長年の慣習に従い、Windows 7についても、全社一斉にではなく、小分けに導入することになるだろう。「何台かの新規PCにはWindows 7を導入するが、相互運用性の理由から、ほかのPCはVistaかXPにダウングレードする」というのが一般的なシナリオとなりそうだ。
ボリュームライセンス顧客の多くはXPを導入できる。そうした企業には、そのための権利とソフトウェアメディアと手段があるからだ。だが多くの小規模企業と一部の個人ユーザーには、もう1つ別の要素、つまりOEMの存在が必要となる。そして、そうしたユーザーはXPへのダウングレードに追加料金を支払うことになる。今現在、Windows Vista搭載の新規PCを購入する際にそうしているのと同じようにだ。
AppleInsiderの見解には、ひとりよがりな部分もある。Windows 7からWindows XPへのダウングレード権を認めることが、Microsoftにとっていかにマイナスかという論調で語っているのだ。全然マイナスなどではない。なにしろ、Microsoftは1台のコンピュータで2つのライセンスを販売できるのだから。そんなに悪い商売ではない。それに、Microsoftはあとからその分までWindows 7ライセンスの出荷本数として公表できる。
ほかにもはっきりさせておくべき点がある。AppleInsiderのプリンス・マクリーン氏は次のように書いている。
MicrosoftがHP以外のOEM各社に対し、個人ユーザーがVista以前のバージョンのWindowsをインストールするためのリストアメディアを新しいPCにバンドルして販売することを認めるかどうかはまだ分からない。もしそうした選択肢を認めないようなら、MicrosoftはPCメーカー各社からのプレッシャーに直面することになるだろう。そして各社は、新しいPCにUbuntu Linuxやあるいは自社で独自にカスタマイズしたLinuxエディションを搭載して出荷するようになるかもしれない。台湾Acerのほか、DellやHPなどの企業は既にNetbook市場でそうした行動に出ている。
Microsoftは独禁法訴訟の和解条件の下、すべてのOEMに対し、同じ条件でWindowsライセンスを供与することになっている。そのため、MicrosoftがHPに対して提供する選択肢は、ほかのPCメーカーにも必ず提供されなければならない。Windows XPへのダウングレード権を得るための武器としてOEMがLinuxを用いるかもしれないなどというのは、あまりに突飛な憶測だ。
そもそもの今回の問題は、2010年4月30日という期限にある。わたしには、これはMicrosoftがWindows XPの販売期限を延長したというよりも、むしろ期限を明確に定めたということに思える。以前に発表したライフサイクル計画をMicrosoftが変更したのでない限り、XPへのダウングレードメディアは今年6月30日までOEM各社に提供されることになっている。そしてその日以降も、ディスクの在庫が続く限り、ダウングレード権は販売される。HPなどOEM各社はその期限までにディスクを買いだめしておきさえすればいい。そして、前述のとおり、ボリュームライセンス顧客には延長は不要だ。そうした顧客には、自由に選ぶ権利がある。Windows 95をインストールしたって構わないのだ。
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