ITの「発明おじさん」――産業技術総合研究所・増井俊之さん達人の仕事術

日本語入力ソフト「POBox」の開発者として知られる増井俊之さんは、「メールは時代遅れ」と断言するなど情報整理にも独自の考え方を持ち、すべての情報をサーバにまとめて自作のツールで管理している。その一方で「ハルヒ」を楽しみ、mixiにハマるなど、若者の話題にも遅れをとらない。

» 2006年08月21日 16時27分 公開
[吉田有子,ITmedia]

 増井俊之さんは、ソニーコンピュータサイエンス研究所に在籍していたころに、現在も多くの携帯電話に搭載されている文章入力システム「POBox」を開発。これによって2005年に「第4回ドコモ・モバイル・サイエンス賞」を受賞した。その後もユーザーインタフェースの分野で研究やソフトウェア開発を続けている。情報整理にも独自の考え方を持ち「適当な道具がなければ自作する」という考え方だ。


増井さんの全情報を握るサーバと、そこにあるWiki

愛用のLet's note R3でなんでもメモする増井さん

 増井さんは、どこにいても小型軽量のLet's note R3でメモを取る。テキストエディタは自分で機能を追加したEmacsを使う。ネットが使える環境になったら、メモは増井さんがすべての情報を置いているサーバ内の自作Wikiにアップロードする。このWikiは、メモ・日記・ToDoリスト・スケジュール管理のために使っており、テキスト形式で入力するが、出力の形式はさまざまだ。例えば、スケジュールならば入力した内容をカレンダー表示にできる。この「お手製Wiki」は、増井さんのサイト内にデモが公開されている。

 このサーバで管理しているデータはほかにもある。プログラムや文章の管理には、Subversionというバージョン管理ソフトウェアを使っている。バージョン管理ソフトウェアとは、複数人でプログラムを開発するときによく使われるもので、プログラムを変更するたびに、それを1つのバージョンとして、変更を加えた時間と変更内容を保存しておき、必要があれば過去のバージョンに巻き戻したりできるものだ。一般に、プログラマーがこういったバージョン管理システムに慣れると、まとまった文章を書くときも同じ仕組みで管理するのが便利だと思うことが多いようだ。

 また、写真の整理のために、Flickrに似た写真整理システムを自作した。それぞれの写真にタグを付けて整理できるところはFlickrと同じだが、違いは、写真を撮った位置(緯度と経度)を登録しておき、地図から「この近所で撮った写真」を呼び出せることだ。面白かった本についても自作の蔵書管理システム「本棚.org」に登録する。本棚.orgは、増井さんだけが使えるものではなく、誰でもサービス内に「自分の本棚」を作り、持っている本や好きな本を登録できる。2004年7月にスタートした本棚.orgは、その後続々と登場した「ブクログ」や「MONO+List」など、アマゾンなどの商品写真を使い、ユーザーごとにモノを登録できるサービスのはしりと言えるだろう。さらに現在は「Wikiとソーシャルブックマークの中間のようなソフトウェアを開発中」だという。

増井さん自作の写真整理システム。ある場所の近くで撮った写真を呼び出すことができる
本棚.orgのトップページ。誰でも本を登録して「マイ本棚」が作れる

「RSSリーダーとmixi見てると仕事ができない」

 そんな増井さんは、どのように情報を収集しているのだろうか。「RSSリーダーはFreshReaderを使っていますが、どんどん読んでしまって困っています。重要度をつけていかないといけないのだろうなと思います。これとmixiを交代に見ているともう一日何もできなくなりますね(笑)。これを見ないで集中する心の強さが必要です」とネット中毒ぶりを明かす。

 FreshReaderには、ある単語を登録しておくと「gooブログ検索」などのフィード検索サービスを利用し、その単語が見つかったら通知してくれるという機能があるが、「やはり評判は気になりますからね」と、増井さんは自分の名前を登録している。増井さんのブログにも、直接コメントはしないが、はてなブックマークにはなにか書くという人が存在するので、自分が見ているページにつけられているはてなブックマークコメントを同時に表示させるFirefoxのGreasemonkeyスクリプトを使っている。

 「最近は、電車待ちなどちょっとした時間にも、携帯でmixiを見てしまうので、いかんなぁと思っています。あとは、iRiver U10で動画を見たりもします。最近は『涼宮ハルヒ』シリーズを見ていますよ」と、若い世代の話題にもキャッチアップしている。

「メールはもうダメですね、時代遅れですよ」

 メールを使った情報整理法は一般に人気があるが、「メールはもうダメですね、このシステムはすでに時代遅れだと思います」と増井さんは否定的だ。スパムと、メールの送信元を詐称できることが2つの大きな問題点だ。さらに、届いたかどうか・読まれたかどうかが送り手に分からないこと、スケジュール調整などをメールのやりとりで決めるとメールの流量が増えて煩雑になること、そして相手のアドレスを知らなければメールを送れないこと、を挙げる。

 「メールにとって代わるより良い手段があったら、いつ乗り換えが起こっても不思議ではありません」

 一方、紙の情報整理は苦手だという。「紙の整理はうまくできていません。でも最近は、紙でもらうものは減りましたよね。名刺とパンフレット程度ではないでしょうか。論文も以前は紙で来ましたが、現在はPDFになりました。ScanSnapも買ったのですが(8月8日の記事参照)、まだ使いこなせていない状態です」と明かす。

 サイクロンで有名な掃除機メーカー、英dysonの創業社長など、「エンジニアとか『発明おじさん』のような人が好きで、そういう人が出てくる本をよく読みます」という増井さん。一方で生活を便利にしたり、新しい発想に気づかせてくれるソフトウェアを次々と生み出す増井さんもまた「ITの発明おじさん」と呼ばれるのにふさわしい人物だ。

プロフィール
お名前 増井俊之(ますい・としゆき)
経歴 1982年東京大学工学部電子工学科卒業、工学博士。シャープ、ソニー勤務を経て、現在、産業技術総合研究所にて、情報検索、テキスト入力、情報視覚化、実世界指向インタフェース、富豪的プログラミングなどの研究に従事。
PC Let's note R3
携帯電話/PDA(データ通信カードを含む) W41S、b-mobile
デジタルカメラ FinePix F10
ブラウザ Firefox
収集ツール(RSSリーダーなど) FreshReader
メールクライアント Thunderbird
インスタントメッセンジャー MSN Messenger
よく使うショートカットキー なし
ファイル整理ツール(デスクトップ検索を含む) 自前のものをいろいろ
バックアップツール rsync、subversion
検索サイト Google
Webメール なし
ブログ blogger
SNS mixi
ソーシャルブックマーキング del.icio.us、自前のWiki
Wiki 自前
影響を受けた人/本/Webサイト -
座右の銘 -
手帳/ノート 紙はほとんど使ってません
ペン 100円以下のボールペンとか
その他小物(ICレコーダ、ポストイットなど) iRiverのU10を動画プレーヤ/音声レコーダに使ってます
テキスト編集はEmacsばっかり使ってます
携帯でもPCでも日本語入力はPOBoxを使ってます

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