連載
» 2007年07月02日 10時34分 UPDATE

良いコミュニケーションを取るために:第7回 「事実」よりも「意見」を言う

最終回は、スムーズなコミュニケーションを取るための言葉の使い方を引き続き解説します。

[平本相武(構成:房野麻子),ITmedia]
平本メソッド 良いコミュニケーション
  連載タイトル
  第1回 “やる気”って一体なんだ?
  第2回 コミュニケーションがスムーズなとき
  第3回 スムーズなコミュニケーションのポイント(3〜5)
  第4回 コミュニケーションの5つのチェックポイント(前)
  第5回 コミュニケーションの5つのチェックポイント(後編)
  第6回 「あなたメッセージ」よりも「わたしメッセージ」
  第7回 「事実」よりも「意見」を言う

 あなたメッセージとわたしメッセージの変形バージョンが、「事実ことば」と「意見ことば」です。事実ことばとは、まるで客観的事実かのように言うことで、この言い方で言われると相手は反発したくなります。一方、意見ことばは主観的意見としていう言い方で、受け入れやすくなります。

 例えば上司に「A君さ、顧客リストを確認してクライアントに会うのが当たり前だと思わない? みんなそうしてるよ。これ、常識だよ」といわれるとどうでしょう。なんだか劣った人間のような気持ちになりませんか?

 確かにリストを確認してから会うのが当たり前かもしれません。でも上のように言われると、言われた方には逃げ道がなくなってしまいます。そして責められた気持ちになります。

 同じ内容を意見ことばとして言うと、こうなります。「A君、僕の考えでは顧客リストを確認してからクライアントに会いにいったほうが、能率がいいと思うんだ。キミはどう思う?」こう言われるどうでしょう。僕はこう思うんだけど、と言っているので「いや、それは違いますよ」とは言えません。

 「事実は──」と言われると事実に反発したくなるのですが、意見だと「それは課長の意見ですよね」「それはそれでアリですね」となります。例えば、室内の温度に関してもそうです。部屋の冷房が効きすぎていて、「ちょっと僕は寒いので、温度を上げてもらえますか」と言われると受け入れやすいけれど、「みんな寒がっているよ」と言われると、「ホントかよ、みんなって誰だよ!」みたいな感じになるし、「普通は27度ですよ」と言われると、「何をもって普通なんだよ!」と思ってしまいますよね(笑)。

 このように、客観的事実をのように言われると反発したくなります。“普通は”ではなくて、“僕は”というように言いましょう。もちろん、拒否されるときもあります。ただ、意見に対してのほうが反感は持たれないはずです。

相手の考えや気持ちを言い当てない、読み取らない

 相手の気持ちを解釈しようとしてはいけません。人から「こんな風に考えているんじゃないの?」と言われると、上から読み取られた感じがします。こうなるとヨコの関係ではありません。本当に共感していればいいんですが、「こうやったらうまく成績が上がると思っているんじゃないの?」というような感じで言われると、上から見透かされたような気がするので、いい気持ちはしません。

 また批判もダメです。「それじゃダメだ、間違っている」と言っては良いコミュニケーションは取れません。また同情も禁物です。例えば上司に、「A君、かわいそうにねぇ。今月予算にいかなかったねぇ」と言われると、バカにされたような気になりますね。その意味で、同情と共感は違います。同情は上からかけられるものですが、共感は対等です。「そうか、今月予算にいかなかったんだ。俺もあったよ、そういうとき。去年の11月頃、そんな感じで辛かったよ。なんか分かるよ、君の気持ち」となると、対等でヨコの感じがしますね。これが共感です。同情と共感は似て非なるものです。

 また、こうしろ、ああしろと、人を支配するような言い方もいけません。昔はよく言われていたかもしれませんが、今はああしろ、こうしろで人は動きません。

批判せずに反対意見とその理由を言う

 ののしったり、感情的になったり、傷つけたり、バカにしてはいけません。相手と自分の意見が異なる場合、「あなたは間違っている」「その考えは正しくない」「おかしい」という代わりに、「なるほど、あなたはそう考えるんだ。そして、私はこう考える」という感じで言いましょう。ここでのポイントは、「BUT」でつながず「AND」でつなぐことです。

 例えば、「A君はこのA案がいいと考えるんだね、だけど(BUT)、僕はB案がいいと思うんだ」というのはダメです。「A君はこういう理由でA案がいいと思うんだね。そして(AND)僕はこういう理由でB案をいいと思うんだけど、A君、どう思う?」と言われると、「なるほど、そういう考えもあるのかな」となります。

 よく、部下の話をよく聞いたほうがいいという本を読んで、それを実践することもあるでしょう。「じゃあ、A君、話してごらん」といって、A君が「こうでこうで、だからA案がいいんですよ」と30分くらいかけて話してくれたとします。「なるほど、そうか。A案がいいんだな」と、さんざん聞いた後に、「だけど(BUT)」と続けてはいけません。「キミの言うのも分かる。だけど(BUT)B案がいいんだ。なぜなら……」といってひっくり返してしまったら、これまで聞いたことが全部無駄になってしまいます。

 徹底的に相手の話を聞き、“そして(AND)”で自分の話をつないで、どうしたら両方の共有ゾーンを見出せるか、とい考えるべきなのです。「A君のA案はこの理由でいいと思うし、僕はこういう理由でB案がいいと思うんだけど、どうしたら、この両方の共有ゾーンを見つけられるだろうか」と言われると、言われたほうも嫌とは言えません。「なるほど、じゃあどうしたら見つけられますかね」という感じで前向きになります。

 コミュニケーションで誤解されているのが、相手と自分が意見が違ったら、もう協力できないと思ってしまうことです。そうではなくて、意見が違うから、もっといいものができると思ってほしいのです。その際に大事なのは、徹底的に相手の意見を聞いた上で、“そして(AND)”でつないで自分の意見を言った上に、さらに良いものを作るには、という視点を持つことです。「意見が違うからダメ」「こいつとは合わない」「オレのやり方と違う」ということになってしまうと、自分のやり方以上の能力は発揮できません。これは部下だけでなく、子供や妻・夫など、家族と接するときでも同じです。

 お客さんと対応しているときでもそうですね。「こういうものを作ってください」とお願いされて、「分かります、お客さん。だけど、その予算では難しいです」と言ってしまうとそこで終わりです。そうではなく、「なるほど、お客さんはそういうものを、その予算で作ってほしいんですね」と聞いて、「そして(AND)弊社としては、これだけのものを作るには、これだけの予算がかかるし、これだけの予算だったら、これだけのものができるんです。今のままだと赤字になってしまうので、どうしたらそちらのニーズを満たしながら、ウチが赤字にならないようにできますかね」と聞いていくと、「なるほど、それだけかかるんだ。じゃあ、5つの要望を上げたけれど、せめて1と2のクオリティだけはマックスにしてくれ。あとの3つは予算の範囲内でいいものにしてもらえればいいから」というような交渉もできます。

 相手の意見は批判せず、自分の違う意見と理由を冷静に、相手の立場を考えて言うことが大事です。

肯定的なところに気づき、自分の気持ちを言葉にする

 日本人はなかなか「ありがとう」「うれしい」を言わない人種です。なぜかというと、一昔前は言葉を言わなくても通じ合えていたからです。

 小津安二郎の映画を知っているでしょうか。例えば『東京物語』では、年老いた夫婦が、海を30秒くらいじっと見つめるシーンがあります。2人が海を見ているだけで、なんだか伝わってくるものがあるのですね。これぞ日本人の夫婦という感じなんですが、外国人には理解できません。「なんであの2人、海をずっと見てるだけなの? なんで向かい合わないの?」となる。

 『東京物語』の時代は、夫が妻に対して「ありがとう」とか「こうしてくれてうれしい」とか「素敵だった」みたいなことは言いません。でも、理解できた。その時代はわざわざ言葉で言わなくて良かったのです。

 ところが、今は生活習慣が変わり、さまざまなライフスタイルがあり、考え方、見方も違う世の中になって欧米化しています。だからこそ、しっかり言わないといけません。部下に対しても、妻に対しても、子供に対しても、ありがとうと思ったら思うだけじゃなくて「ありがとう」言いましょう。

 コーチングやカウンセリングをしている中で、たくさんの人がこういいます。「いつも、ありがとうって思っていたのに、妻には伝わってなかった」と。あるいは上司の方が「この部下がいてくれたおかげで、本当にウチのチームは助かっている」と。でも、部下は「ウチの上司、全然僕のこと認めてくれていないみたいなんですよね」と言う。言わないから伝わっていないのです。あなたが思っている以上に、実は相手に気持ちは伝わっていません。だから、「ありがとう」「うれしい」という言葉は、ぜひ口にして言ってあげてください。

 恥ずかしかったら、身近な人や言いやすい人からでかまいません。練習して言ってみてください。言い過ぎても害になるものではありません。ただ、あまり言い馴れない人に言うと、「何かやましいことがあるんじゃないか」と妙に思われるかもしれません。でも、ずっと言い続けていると、本当にこの人は自分に感謝して言ってくれているんだな、と分かってもらえるはずです。

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ピークパフォーマンス 代表取締役

平本相武(ひらもと あきお)

 1965年神戸生まれ。東京大学大学院教育学研究科修士課程修了(専門は臨床心理)。アドラースクール・オブ・プロフェッショナルサイコロジー(シカゴ/米国)カウンセリング心理学修士課程修了。人の中に眠っている潜在能力を短時間で最大限に引き出す独自の方法論を平本メソッドとして体系化。人生を大きく変えるインパクトを持つとして、アスリート、アーチスト、エグゼクティブ、ビジネスパーソン、学生など幅広い層から圧倒的な支持を集めている。最新著書は「成功するのに目標はいらない!」。コミュニケーションやピークパフォーマンスに関するセミナーはこちらから。


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