フリーアドレスを成功させたGDO、1200日間の熱き闘い新しいオフィス環境──オフィス移転、レイアウト変更のポイント(3/5 ページ)

» 2008年01月18日 19時28分 公開
[豊島美幸ITmedia]

「こだわったのはペーパーレス、そして一棟借りと空間づくりですね」 ―― こだわり抜いた構想 ―― 

 社員のパフォーマンス向上。この絶対軸がぶれることはない。

 ではこれを踏まえ、具体的にどのようなフリーアドレスを目指していったのか。

 次のような実に細かい目標が設定され、具現化させていったという。

 「実現したのはデジタルモバイルとペーパーレスです。ハードルは高かったですが、やはりパフォーマンスを高くする観点から外せませんでしたね。デジタルモバイルさえあれば、いつでもどこでも資料が見られますから。逆に紙は、その紙のある場所まで行かないといけません。情報セキュリティという点からも、やはり欠かせない改革でした。将来的には“どこでもオフィス”を目指したいので、その夢も見込んでのことです。

 それから空間作りですね。オープンにするところ、集中するところ、変化に富んだところ、リラックスするところ。具体的にはラウンジ風、屋上デッキ、ハイカウンターなどさまざまな空間を用意し、楽しんで仕事ができるよう、また用途別に自由に選べるよう工夫を凝らしました。さらに階段もオープンにし、歩きながら自然にあいさつができる造りにしましたね。

 ただしフリーアドレスといっても、例えば株の話しなど、やはりオープンにすべきでない内容もあります。ですから後から社長の部屋を作りました。役員だけが使えるエリアもありますよ。でもその隣には社員の憩いスペースを配し、あえてコラボレートを狙っています。

 なによりこれらの空間は一棟借りだということ。ここには強くこだわりました。名だたる企業さんが入居している立派なオフィスビルも見せていただいたんですが、当社社員では借りてきた猫のように委縮してしまうと思ったんですね。そういったビルに当社のゴルフウエアが届いたりするのも、どうもイメージがわかなかったんですよ。それならば、のびのび働ける空間がいいのではないかとなりまして、一棟を借り上げたんです。

 ただ賃貸とはいえ更地から計画にさせていただいたので、その点は運がよかったですね。建設前から賃料のお約束もしていたので、天井高を高くしたり階段をオープンにしたりするなど、通常の賃貸ならすでに決まっている個所を自由に設計できたんですよ。

 賃貸か自社ビルかは、非常に細かくシミュレーションしたうえで決定しました。借りた時期の賃料があまり高くなかったのも幸運でしたね。

 あとはセキュリティの強化と人事制度の改革も一緒に進めていきました」

「一番大事なのは、トップの強い意志だと思うんですね」 ―― 移転までの550日間戦争、“Project Tiger”始動 ――

 これらの方針は一朝一夕で決まり、即座に実行されたわけではない。移転からさかのぼること1年半前。

 社員60人からなる実行委員会、“Project Tiger”が発足された。彼らを中心に、全く未知のフリーアドレス導入に向けた一大プロジェクトが動きだす。

 「各名称は、本社が虎ノ門にあることと、タイガーウッズ氏にちなんだ遊び心から、すべて“Tiger”が入っています。8部門に分かれた委員会、名づけて“Team Tiger”のメンバーは基本は挙手制。社員全員の意見をこの委員会中心に詰めていったんです。ただこうした新しい制度導入は、本部長クラスなどキーマンの反対でうまく進まないという話をよく聞きます。それを回避するため本部長を集め、週に2回ずつ細かい情報共有をする説明会、“Compass Tiger”を発足しました。そして彼らから各メンバーに伝える手法をとりましたね」

 “Team Tiger”を中心に進行したのが大改革計画の“Project Tiger”、そして“Compass Tiger”。計画の進行状況を社員が逐一把握できるよう、さらにもう一工夫なされている。クローズサイト、“Site Tiger”がそれだ。

 「サイトでは情報を随時アップしていったんですが、サイト自体はかなり早い段階から立ち上げました。移転後のオフィス光景もシミュレーションした絵を見せていましたし、それこそ文房具の取り扱いはどうしましょうとか、私物はどこにおきましょうなどの細部に至るまでQ&A形式で公開したり、マニュアルを作って『フリーアドレスはこう活用しましょう』と啓蒙したりしていきましたね。委員会のブログまで公開していました。

クローズサイト“Project Tiger”の画面。ここをのぞけば、進行状況がすぐ分かる

 というのは、やはり中には不安や疑問を抱いてはいても、口に出せない人もいると思うんですよ。そうした人でもここを見れば不安をぬぐい去れるように工夫したんです。このサイトのおかげで『フリーアドレスは不安。でもどうやら今よりはよくなりそうだ』という認識が浸透していきました。不安を抱えがちだったのは、どちらかと言うと管理職でしたが」

 たかがサイト。されどサイト。

 “Site Tiger”は、未知の改革を前に不安を抱く社員心理に、プラスの方向へと少なからぬ影響を及ぼしたようだ。

 ただし、それでも課題が完全になくなったとは言えなかった。

  いったいどのような課題が残り、どう解決したのだろうか。

 「実はフリーアドレスよりもペーパーレスの不安のほうが大きかったんです。山のようにある紙資料をスキャニングしてPC内に移転保存していく作業が伴うので。ですから正直、移転前はその作業が大変でした。逆に移転をしてしまったら意外に大丈夫でしたね。

 もちろんパンフレットなどが必要な営業、それに経理はどうしても紙が必要です。ですのでペーパーレスの概念は、言ってみればペーパーストックレスという概念です。

 ただこのプロジェクトを進めていくうえで一番大事なのは、トップの強い意志、こだわりです。

 『俺はやらないけどお前はやれ』だと難しいと思うんですよ。当社はeコマース、eブッキング、eメディアの3つの主力事業がありますが、『今後はこれら3つをコラボレートするのが重要だ。俺もやるからお前らもついて来い』という、社長の石坂信也の強い意志があったんですよ。だからこそ実現したんだと確信しています。

 とにかくこうした準備があったからこそ、ワークスタイルは180度変わりましたが、移転当日も運用後もなんら混乱もなく進めてこられたんですよ」

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