ここまでくると、ある種のアイデアになった。これをヒントにしてもう少し、具体的アイデアを出してみる。
コツその4:「ぎりぎり実現可能なくらいのもの」で書き出したスペックをすべて満たす必要はない。発想の材料だと割り切って、そこから組み合わせやすいものだけを自由に使って発想する。
例えば、傘の張りも骨も握りもすべておもちゃの浮き輪のような空気で膨らませる構造・素材にする。使うときは、付属の携帯型コンプレッサーで空気を注入。ボタンを押せば数秒で膨らみ、傘の形になる。
安全弁を付けておき、急な折り曲げでも圧がうまく逃げるようにする。こうすると、突風でも瞬時に力が逃げて「傘をあおられ、転倒」ということがない。使わない時は折りたたんで小さくなる。金属の骨がないので、折れないし、付き出た金属部分がないので安全性も高い。将来的にはヘリウムガスを入れるのもいいな。
側面からの水を防き、手ぶら――を実現する意味では現在でも雨がっぱがあるが、着たり脱いだりするのが面倒だし時間もかかる。また、かっぱは一度脱ぐと内側が濡れたりするのも気持ち悪い。
アイデアとしては、瞬間的にパッと着たり、脱いだりでき、脱いだあとには、ワンタッチで内側を濡らさないように小さくおりたためる雨がっぱがあればいい。じゃあ、防水布にワイヤーフレームを張り付けて……。そうだ、キャンプで瞬時に広がる1人用テントがあるが、あれをモチーフにしたワンタッチオープンの雨がっぱがいいな。
ワイヤーの構造をうまく工夫して、脱いだ時に濡れた面が内側にたためるような構造だといい。見た目は、あの1人用テントの高さを倍ぐらいに高くして、底を抜いて、それを頭からかぶるような感じになるかな。
10秒間、片手をフリーにして、鞄の中のものを取り出せるようにする、ということであれば傘の柄が地面まで伸びて自立するようになればいいな。さすがに完全に自立する機構をつけるのはかなりハードだけど、カメラの1脚のようなものを柄に内蔵するくらいならなんとか可能かな。
後は、鞄フック。傘の柄についたフックに鞄をひっかければ、手が解放される。これならば、10秒程度なら自由になりそう。慣れてくれば、傘を自分の肩に立てかけて両手を同時作業(携帯で話しながら手帳を見る等)ができるかも。もちろん、いずれも立ち止まって使うことが前提の機能にはなるけれど。
なお、この方法で発案した場合、理想性が高いアイデアになるので、(斬新なだけではなく)筋の良いアイデアができやすい。
斬新なアイデアを考えようとしても、どういう方向にアイデアを伸ばすべきなのかが漠然としている場合が多い。
とはいえ、先が見えないとアイデアは出にくい。「考えつかないようなものを考える」ことははじめから苦しい作業なのである。方向がぼやっとしているとき、人は自然と、現在地点から出発して「できることベース」で徐々に発想を広げていく。
これは解の連続した領域を広げていく雰囲気の思考スタイルだ。しかしこれでは、連続領域を飛び越えて存在する離れ小島のような解領域(意外な解、斬新な解)にたどり付きにくい。
もちろん世の中には、頭の中の解空間を猛烈な勢いでランダム検索し、どんどん斬新なことを考え付ける人もいる。しかしそういう人でも「今日は不調だ、斬新なものが思いつかない!」という日がある。
そういう時、このプロセスをぜひ試してほしい。筆者はこの記事を読んでくれた読者が、発案の仕事をいつでも力強く駆け抜けて、先へ先へと進んでくれることを心から願う。
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