問題を抱えている相手に対して、「自分はそのために何ができるか、どう問題を解決できるか」をいきなり語っても、受け入れられることは少ない。これは営業をするときでも同じで、商談が始まった直後から、
この製品を使うと御社にとってこれほどメリットがあって、わたくしどもは御社にこんな貢献ができて……。
と相手に語り続けるようなものだ。これでは相手は白けてしまう。そうではなく、まずは相手から話を引き出して、距離を縮める。距離を縮めてから、「あなたの問題は分かりました。では、このように解決するのはいかがですか?」と提案に移るのだ。「相手を主語にした話をして、自分が代わりに理屈を説明する」という1ステップが、話を引き出すための呼び水になるわけである。
この「相手を主語にして話を引き出す」という行為は、相手の態度を和らげて距離を近づけるためだけに行うのではない。自分が相手に対して共感を覚えるための、非常に重要なポイントになるのだ。
そもそも、「他人に対して共感できない」ということは、「相手の言っていること、考えていることに納得できない」ということ。ならば、そこに自分でロジカルに整理すれば、「そうか、こういう理由でこの人はこんなことを言ったんだ」という相手への共感につながる。
さらに、相手の言っていることを自分なりに整理して、再度投げ返してあげることで、「相手も理解していなかったロジックの流れ」に気付いてもらえるかもしれない。
「コンサルタントというのは、常に組織の外からくる。こいつらはうちの会社に来てまだ一週間足らずなのに、なんでこんなにうちのことが分かってるんだ? と思わせたら、こちらのもの」(芦辺氏)
「たまに理由もなく怒っているように見える人もいるが、そういう態度にもきちんと理由はある。よくいるのは、本当に怒っているわけではなく、相手に対して威張ることで自分を偉く見せたい、という人。それならば、『おっしゃる通りです』と素直に相手の偉さを認めてやればいい」。ただし、そうした相手の真意を見抜くには、ある程度場数を踏む必要があるという。
「コンサルタントは企業専門の医師のようなもの。こういう症例にはこう対応する、という紋切り型ではダメ」(日立コンサルティングの伊藤雅彦氏)。だからこそ、本や話を聞いて「なるほど」と納得しているだけでは、本当の質問力やコミュニケーション力は育たないわけだ。
3回に渡って解説してきた「明日から試せる『質問のコツ』」。あなたもぜひ、明日から、いや、たった今から、ビジネスの現場で実践してみてはいかがだろうか。
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