たった一言で信頼を失う一撃「超」説得法(2/2 ページ)

» 2013年05月31日 11時00分 公開
[野口悠紀雄,Business Media 誠]
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面接試験での負の一撃とは

 面接試験で、負の一撃を(気が付かずに)放つ受験生がいる。

 本章の1で述べたように、「なぜここを受験したのか?」は、入試や就職試験の面接での定番質問だ。これに対して「この研究科のA先生の著作に感激し、ぜひとも指導を受けたいと思ったから」という答えが返ってくる場合が多い。しかし、これは負の一撃になる危険性が高い答えなのだ。

 その理由は、A教授と犬猿の仲であるB教授が、面接委員の1人になっている可能性があるからだ。B教授が右の答えを聞いたとしたら、どう感じるだろうか? 公平であるべき面接試験に私情を挟んではいけないとは知りつつも、心穏やかではいられないのではなかろうか?

 A教授とB教授が共に審査委員になっている場合もある。B教授のことも、彼とA教授の関係も知らない受験生は審査委員にA教授を見つけて、嬉き々きとして礼賛している。B教授の顔色が見る見るうちに変わっていくのを、審査委員の1人として見ている私は、必死で受験生に目くばせする。しかし、残念なことに、その信号は届かない。

 「右のようなことが起こる可能性は低いのではないか?」との意見があるかもしれない。確かにそうである。しかし、犬猿の仲でないにしても同僚教授が手放しで礼賛されるのを聞かされて愉快に思わない人は、少なくはない。だから、右のような答えは負の一撃になっている可能性が高いのだ。

 大学でさえこうである。ましてや、派閥抗争渦巻く会社の中ではこの類の事件は日常的に起こる。例えば、C専務とD常務は犬猿の仲であり、E課長夫人はC専務の娘であるとしよう。この関係を知らずに、D氏に向かってE氏を礼賛したら、どうなるだろうか?

 あるいはトイレでの同僚との立ち話で、C氏の悪口を言ったとしたら? C氏が部屋にいるのは確かめたから問題ないと思っていたのだが、実はトイレの個室にE氏がいたとしたら、どうなるか?

積極的に行動しつつ、負の一撃を避ける

 以上で述べたような事態を回避することが必要だ。それだけでも、あなたの評価は大きく改善する。「正の」一撃説得は成功しない場合もあるが、「負の」一撃説得は注意深く行動すれば、ほぼ完全に避けられる。だからさまざまな場において、これを回避するように努力しよう。

 ところで、以上の注意を受けて「出る杭くいは打たれる」「雉きじも啼なかずば撃うたれまい」ということわざを思い出し、「何か言うと負の一撃になってしまう危険があるから、何も発言しないのが得策だ」と考える人がいるとしたら、それはまったくの誤解だ。「外を歩くと交通事故に会う可能性があるから、一年中家に閉じこもっていよう」というのと同じように、ばかげた発想である。

 会社では上司の命令にひたすら服従し、自分からは何も提案しない。会議では何も発言せずに沈黙したままで、意見を求められても「特にありません」と答える。これでは、「私は無能です」と自ら証明していることになる。

 文章の場合もそうである。想定される批判に備えることだけを考えてハリネズミのようになった論文がある。自分の意見は一切表明せず、権威者の意見の紹介に終始する。あるいは、「……といわれている」とか「……というのが学界の多数意見だ」という類の表現に逃げ込む。こうした論文は、「読む価値がありません」と自ら表明しているに等しい。

 積極的に発言し、行動したからといって必ず負の一撃を発してしまうわけではない。これを避けるのは、交通事故から身を守るよりも簡単なことである。

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