世界基準で「チーム」を考える――セレッソ大阪がトッププレイヤーを生み出し続ける理由ベストチーム・オブ・ザ・イヤー(1/3 ページ)

日本代表選手をつぎつぎと輩出しているセレッソ大阪の育成方法が注目されている。人材育成術やチームプレイの生み出し方、チームで成果を出す具体的な秘訣について、大熊氏と宮本氏に聞いた。

» 2014年07月03日 11時00分 公開
[ベストチーム・オブ・ザ・イヤー]

「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」について

Photo

チームで仕事やプロジェクトを進める際の考え方やヒントを探る本記事「最強チームの作り方」は、「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」の「世界基準で「チーム」を考えるーセレッソ大阪がトッププレイヤーを生み出し続ける理由」から編集・転載しています。

ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、その年に最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを毎年表彰するアワードです。サイトでは日本の組織が持つべき「チームワーク」について、精神論ではなく、組織とメンバーがともに成長できる論理的な方法を考え、提案しています。


プロフィール

宮本功(みやもと・いさお)
1970年生まれ。徳島県出身。高知大学卒業後、セレッソ大阪のヤンマーディーゼルサッカー部に入部。引退後の1995年にフロント入り。セレッソ大阪広報部長、普及育成部長などを経て、一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブ代表理事。

大熊裕司(おおくま・ゆうじ)
1969年生まれ。埼玉県出身。中央大学卒業後、日立製作所、柏レイソル、京都パープルサンガ、アビスパ福岡を経て1999年引退。アビスパ福岡にてコーチ等を務めた後、2005年にトップチームのヘッドコーチとして加入。(公財)日本サッカー協会ナショナルコーチングスタッフ、U-18日本代表コーチを経て、2010年よりセレッソ大阪アカデミーダイレクター兼U-18監督


トライ&エラーを推進し、チームプレイを“刷り込む”育成術

――個人技だけでなく、チームプレイを行う際に重要な要素とは何でしょうか

一般社団法人セレッソ大阪スポーツクラブ代表理事 宮本功氏

宮本: サッカーは11人対11人で戦って、ボールは1個しかない。1人がボールを持っているときは、持ってないチームメイトは10人います。サッカーはボールを持っている人だけが優れたプレイをして勝てるスポーツではありません。ボールを持っていない人たちが、ボールを持っている人を助けているのです。

 だからこそ、チームプレイが重要になってくる。私たちは子どもたちに、
「個人戦術→グループ戦術→チーム戦術」
という順番でトレーニングしていきます。小学生のころから段階的にスケールアップして、プロになるときにはそのすべてが備わっている。そこにはもうチームプレイが刷り込まれているのです。

 しかも最長9年間も同じ場所で、トップチームでプレイするために逆算されたノウハウが刷り込まれてきたからこそ、セレッソは家族のように仲がいい。海外に移籍した選手も日本に戻ってくると、謎の練習生となって勝手に練習している。通常なら考えられないことですが、彼はそれが当たり前と思っている。セレッソがそういう場になっているとも言えるのです。

――個人では優れていても、チームになると本来の実力が出せないというケースもあると思うのですが、いかがでしょうか

宮本: そもそもプロ選手になれる子は、チームでも実力を出せるという点をクリアできています。そして、常にチームプレイで実力を発揮できるように、トライ・アンド・エラーに関してはすごく許容しています。要はトライしたことは認めるという方針です。エラーは責めない。

 サッカーは絶えず自立して動かなければなりませんし、組み合わせのパターンもてんこ盛りです。そのため、あらゆる選手が自立できるように、自分で考えるという要素が練習には必ず入っています。いくら技術だけを磨いても判断が入っていなければダメなのです。プレイのあらゆる要素の中に判断があり、それが個人だけでなく、グループ、そしてチームとして判断できるようにならなければならない。そういうトレーニングをずっと積んでいくのです。

 消防士が火災現場で自立して判断して対応できるようにトレーニングすることと同じです。それを子どものときからトレーニングしていく。能力を発揮できる、できないという前に、能力を使えるように持っていく。もし技術を持っていても試合で使えなければ、技術を持っていないと見なされる。だから、使えることを重視するトレーニングをします。

 したがって、練習のための練習はしません。試合に即した環境を絶えずつくり込んで、判断を混ぜたトレーニングをさせる。試合のリアリティを出すこと、力が発揮できない設定を生まないように常に気を配っています。

「強さ」の秘訣は「世界基準で考え、競争する」

――レギュラーになれなかったとき、ネガティブな態度をとってしまう子どもたちもいると思いますが、その際はどのように対処しているのでしょうか

セレッソ大阪アカデミーダイレクター兼U-18監督 大熊裕司氏

大熊: 多感な時期でもあるので難しいですが、われわれは良いチームをつくること以前に、個の成長なくして良いチームはできないと思っています。だからこそ、それぞれの子どもたちの成長をしっかりと見極めながら、個人個人にアプローチすることが大事だと考え、日々のモチベーションを一番大事にしていますね。

 選手たちがどこに目標を持っているのかを、常にコーチは確認しています。その目標のために今がある。日々のモチベーションを高めるための工夫は、それぞれのコーチが一番細心を払っていると思います。もちろんすべてを完璧にできるかといえば、そうとも言い切れませんが、これまでの経験を踏まえながら出来る限りの努力している最中です。

 レギュラーになれなくてもいいという子どもはいません。目標がはっきりしている組織なので、当然ながら皆がトップになりたい、プロになりたいという思いがあります。その目標にアプローチしながら、現状に満足することなく常に上を目指せるような環境づくり、意識づくりをするようにしています。そういう競争環境を作り上げることが強い組織をつくっていくとも思います。

――指導者の養成も力を入れているのですか?

大熊: とても力を入れています。さらに言えば、指導者の指導者(インストラクター)もいます。選手を育てるように、指導者も育てていかなければならないのです。そこは子どもを育てるのと同じくらい重要な要素です。

 指導者養成は組織全体で取り組まなければ、組織として成熟していくことはありません。他のクラブもやっていると思いますが、われわれの場合、勉強会ほか積極的に外に出る機会をたくさん与えてもらっており、育成指導者も海外研修などで多くの経験をさせてもらっています。指導者に学びの場をたくさん設けている点は他クラブよりも進んでいると思います。要は、クラブの考え方として、どこに投資すべきかをよく考えているということです。

 「子ども」「環境」「指導者」の中で、教えるのは指導者ですから、指導者が世界基準を分かっていなかったら子どもたちにも教えられません。われわれは何事も世界を基準に考えていくことから始めます。世界を目指し具体的に行動を起こして育成をしているチームはそんなに多くはないと思います。

       1|2|3 次のページへ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ