何でもできるがゆえに、力を発揮しすぎてしまう「プレイングマネジャー」という存在。しかし、本当のリーダーに必要なのはチームメンバーに任せ、次のリーダーを育てることだという。
チームで仕事やプロジェクトを進める際の考え方やヒントを探る本記事「最強チームの作り方」は、「ベストチーム・オブ・ザ・イヤー」より転載、編集しています。
ベストチーム・オブ・ザ・イヤーは、その年に最もチームワークを発揮し、顕著な実績を残したチームを毎年表彰するアワードです。サイトでは日本の組織が持つべき「チームワーク」について、精神論ではなく、組織とメンバーがともに成長できる論理的な方法を考え、提案しています。
「リーダーになりたくないと言うことは、仕事をしたくないということと同じ」「誰もがスティーブ・ジョブズのようなカリスマリーダーを目指さなくてもいい」――。こう話すのは、ベストチーム・オブ・ザ・イヤー実行委員会 委員長に就任した 明治大学文学部 齋藤孝教授。若手ビジネスパーソンが抱えるチーム作りの悩みを解消してもらいます。
―― リーダーに必要な根本的な素養とは?
齋藤孝氏: リーダーで一番大事なのは「問題が見えていること」です。そうじゃないと、チームを引っ張っていく行き先が分からないですから。率いる方向性を指し示すことができれば、後はメンバーそれぞれが得意な仕事をやればいい。
「何としてもゴールまでたどり着く」という気力を持ち、その意思をメンバーに表明するのがリーダーです。特殊能力はまったく必要ありません。意思や気力を保ち続けると、自然とみんなが頼りにしてくれるようになる。そこにできているのが、チームです。
―― チームのゴールを指し示すことが何より重要だと。
齋藤氏: ええ。サッカーの小野伸二選手は、高校時代からそうだったみたいですね。敵に2点取られても、小野選手はずっと明るい表情でプレーし続けたそうです。結果として所属する清水商業高校が逆転勝ちしたそうです。
サッカーで相手に2点先取されると、普通は意気消沈しますよね。そこでただ1人「まったく問題ない」「必ず逆転できる」と前を向く。自分たちの向かう方向は正しいんだとリーダーが表明し続ければ、チームメンバーが明るくなり、不安を持たずに進んでいける。
そういう意味では、リーダーはスキルよりも「ミッション、パッション、ハイテンション」が必要だと思うのです。
―― まさに小野伸二選手は、「ミッション、パッション、ハイテンション」というリーダーの振る舞いをしていますね。
齋藤氏: はい、この中でも特にミッションは大事で「その問題を解決しないといけないんだ」という強い使命感を持つことです。これはその問題を真剣に考えているかということであり、誰もができること。リーダーとしての気質はまったく問題ではありません。
ある大手電鉄会社の社長に「どんな人を採用したいか?」と聞いたら、「当事者意識がある人」と一言答えてくれました。「リーダーシップがないからリーダーになりたくない」という発言では、当事者意識が足りないわけです。
「この問題は誰かが解決してくれるだろう」ではなく、「自分が何とかしなくちゃいけない」という意識を持てるかどうかです。リーダーの素質をその人の性格や気質の問題に帰着させるのは、卑怯だと思いますね。
―― 「プレイングマネジャー」ではチームが回らないという意見があります。リーダーとしてチーム全員で士気を高めていくにはどうすれば良いでしょうか?
齋藤氏: プレイングマネジャーって、“エースで4番”ということですよね。こういうリーダーがいると、ほかのメンバーはどうしても力を発揮しにくいんですね。
ここは、リーダーの仕事をご自身で捉え直してみるといいでしょう。リーダーは、プロジェクトに初動を与えるための仕組み作りをする役割だと考えてみましょう。
プロジェクトを動かすために誰と一緒にやるか、そのために人と人とをどう結びつけるかを考え、初回の会議で初動のエネルギーを与える。後は身を引いて、チームが動き出せるようなシステムを作る。これがリーダーの仕事です。
リーダーは、チームが自律的に動いていくシステムを最初に作れる人のことを指します。もちろん率先する姿勢は重要ですけど、肝心なことを一人でやるのではなく、それを3つか4つの役割に分担して、後は任せるということです。思わず「自分でやりたくなっちゃう」ことを、ぐっとこらえるのが大切です。
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