人材育成かアウトソーシングか 優秀な人材を確保する未来の人事を見てみよう

自分の仕事を、無断でアウトソーシングしていた社員のが話題になった。機密保持などの問題があるとはいえ、成果を出していたと好意的な声もあるようだ。もしあなたに、社外に仕事を出して結果を出す部下と、自ら働くが結果を出さない部下がいたら、どちらを優秀だと見なすだろうか?

» 2013年01月22日 11時40分 公開
[調祐介,Business Media 誠]
誠ブログ

 クレイア・コンサルティングの調です。2013年1月17日に話題になったニュースの1つに、自分の仕事を無断で社外にアウトソーシングしていた社員の話がありました。

 自分の仕事を無断で中国に"アウトソーシング"していた従業員──Verizonが事例として紹介(参考記事)

 元記事はverizonのSecurity Blog(参照リンク)で、CNN.co.jpでも「『優秀』プログラマー解雇、仕事中国に外注して自分は猫ビデオ 米国」(参照リンク)というタイトルで取り上げられています。

確かに悪いことはしているが

 当然ながら、機密保持の問題やインフラという企業の屋台骨に関わる重大事などして糾弾する声があるのは事実です。一方で、一社員の生産性という観点だけで見れば、非常に優秀な社員であるにもかかわらず辞めさせるのは言語道断で、「逆に報いるべきだ」という意見もあります。元記事のコメント欄にもそのような指摘がありますし、元切込隊長のやまもといちろう氏のツイートをはじめ、米国だけでなく日本でも好意的にとらえられている印象を受けました。

 人事・組織系で論壇を張ることも多いMargaret Heffernan氏も、この件を"How to outsource your own job"(CBS MONEY WATCH、参照リンク)で取り上げており、そこである問いを投げかけています。

 Bob was fired. But it made me wonder -- how many people outsource their jobs?...

 A lot of lawyers get junior attorneys to prepare their work for them. Some academics do too. You may get one appointment with an important hospital physician and the expensive surgeon may turn up for your operation, but most of the time your medical treatment is in the hands of less august (and pricey) staff than the named consultant. How many companies do you know that field their best and brightest for the sales pitch who, once the deal is done, are never seen again?

 ボブ(当該社員の仮称です)は解雇された。しかしこのことである疑問が浮かんだのだ……。果たしてどれだけ多くの人が自身の仕事をアウトソーシングしているのか? と。

(中略)

 多くの弁護士が、自身の仕事の準備を若手弁護士にやらせている。教育界でも同じだ。あなたは、あるとき非常に高名な勤務医と知り合いになり、そのつてで自分の手術を高額な外科医にやってもらうかもしれない。しかし医療行為が行われるほとんどの時間は、その名の通った先生ではなく、それほど威厳がない(なおかつ安い)スタッフの手に委ねられるのだ。営業の時だけ最優秀人材を連れてきて、契約さえ終われば2度と姿を現さない、そんなことをする会社をどれだけ知っていますか?

 教授の論文を実際はポスドクが書く、といった話はよく聞きますね。テレビドラマなどでも、有名な医師がいると聞いてその医師に診てもらいたくて入院したのに、実際に診察に回ってくるのは全く別の若い医師だったりするといった場面も思い浮かびます。

 その後ゴーストライターの話など、表向きと実情の違いが如実に出るケースに触れた後、以下のように続きます。

 What's remarkable about Bob's story is that, like most employees, he did turn up physically for work. He just didn't do the work. On the other hand, lots of people turn up at the office and don't do much. At least Bob ensured that his work got done, on time and, apparently, very well.

 ボブの話のなかで注目すべきなのは、多くの社員と同様、彼が物理的にちゃんと仕事場に姿を現していたことだ。彼はただ単に手を動かさなかっただけ。一方、多くの人々は会社に姿を現してもそれほど仕事をしない。少なくともボブは仕事を時間通りに仕上げたし、聞いた情報から判断するに、その仕事の内容はとてもよかったようだ。

 いつもと同じように会社に顔を出し、アウトソースはするもののきちんと成果を出す社員と、自ら働くがそれほど成果を出さない社員と、会社としてはどちらを優秀とみなしますか? という、厳しい問いが投げかけられています。Hefferman氏の最後の指摘として、

 Perhaps the real question isn't about Bob but rather about his manager. Had he outsourced his job, too?

 本当に問うべきはボブではなく彼を管理する立場の人ではないだろうか。彼も単に自分の仕事をアウトソーシングしていただけではないのか? と。

 アウトソーシングがマネジメントとしてタスクを与えることと大きく変わらないのであれば、上司の仕事というのはボブとやっていることとさほど変わりなく、かつ管理監督が出来ていない点でさらに罪が重いのではないか、という痛烈な指摘です。生産性や倫理などのいろいろなトピックが関与する複雑なケースであることは言うまでもありませんが、個人の価値観にも関連し、議論が分かれるところだと思います。もっとも、彼はVPNを中国からアクセスさせるために認証デバイスを中国に送っていたそうで(非公開なので確かなことは言えませんが)、その点や両社間の機密事項の件などを鑑みると、解雇はいたしかたのないことだと思います。

デキナイ社内人材 < デキル社外人材

 ただ、今後は企業が価値を生み出すバリューチェーンが、今以上に1つの企業の枠内にとどまることなく広範に渡っていくことが避けられない状況になっているのは明らかです。

 1月16日にBUSINESS INSIDERで取り上げられていた"A More Decentralized Workplace Is Becoming Inevitable"の記事においても、アメリカに対してのコメントではありますが、

 As companies continue to streamline their operations, low-skill jobs are increasingly going offshore, to robots, or being outsourced in some way.

 企業が業務を効率化し続けていくに従って、難易度の低いスキルを要する仕事はますますオフショアかロボットか、はたまた何らかのアウトソーシングに切り替えられていくだろう。

との見方を示しています。

 とはいえ、今回のボブのケースはITインフラに関する高度技術分野での話だったので、上記の話からは縁遠いように思う人もいるかもしれません。ところが、実は事態はさらに深刻化しています。McKinseyによると、

 we are moving full-force into a knowledge economy, where high-skilled workers will be valued more than ever before. Tech companies are accelerating this trend.

 我々はまさに全力でナレッジエコノミー(知識経済)へ向かっている。そこでは高度なスキルを持った従業員がこれまでになく高く評価される。テクノロジー系の企業がこのトレンドを加速させているのだ。

とのこと。さらに高度人材の内部獲得が難しいことから(ここではボブのケースとは違い正規のプロセスを採用しているはずですが)、高度人材についても正社員ではなく契約社員(contract workers)ベースでの人員確保が進んでいることが下図から見てとれます。

 人事・組織の担当者には、企業が継続して高い価値を発揮していくためにはどのような人的資源(あるいは資本)を組み合わせるのが最も効果的かという、今までとは違うステージでの思考が求められているのかもしれません。これまでの日本企業はリソースベースで戦略を立てる会社が多かったと言えますが、少しその方針をマーケットインの方向に変えていくことになるでしょう。

 そして戦力として考慮すべき対象は内部人材だけに留まらず、外部人材や協力企業まで広がっていくでしょう。最後には、コアコンピタンス(編注:その会社の核であり、競合他社に真似できないような能力)だけを社内に残して、他の部分は積極的に競合企業のオペレーションを活用するといった、ダイナミックな策が日常的に求められてくるようになるかもしれません。

 内部人材を育成していくことは依然として重要ですが、これまで多く見受けられたような、全社員を平等に底上げして人材開発施策を運営していくという選択肢を続けることが果たして適切なのかどうか。1度きちんと検証してみるべき課題ではないでしょうか。

※この記事は、誠ブログ「未来の人事を見てみよう:社内でリーダーが育たない単純な理由」より転載、編集しています。

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