「ゴチソーは、普通のグループインタビューでは出てこない『何か』を引き出すのに向いている」というのは、実際に同サービスを使った博報堂の松井博代さんだ。松井さんは、博報堂で働く20〜30代の若手女性社員で構成された社内横断プロジェクトでゴチソーを使った。リサーチ対象は「生活者」そのものだ。
仕事柄、世の中の動きを「自分だったらどうするだろう」「同僚ならどう思うだろう」という視点で観察しているという松井さん。だが、同時にそれは『博報堂の中』という偏った環境であることも認識していたという。
「ゴチソーを使った理由は『普通の人はどうなのかな』を知りたかったからですね。『最近の女子会は公園でピクニックのようにやる』とか、『80円のコロッケを彼氏と2時間も並んで買うのが幸せ』とか、そういった20代女性のリアルなエピソードを集めたかったのです」(松井さん)
一般的なグループインタビューの場合、参加する人はお互いに初対面だ。マジックミラーを備える専用会議室といった場の雰囲気に慣れるまでにも時間がかかる。結局はモデレータと1対1のやり取りになったり、参加者の中の“声の大きい人”にほかのメンバーが影響されたりもする。
そこで今回のプロジェクトでは、「3人1組、お友達を誘って参加してください」という縛りを設けて20代の社会人女性を募った。会場は肩肘を張らなくて済むレストランを選び、話が弾むようにと「○×クイズ」形式の質問も取り入れた。お酒を入れてみると話はさらに盛り上がったともいう。
「友達同士でも意見が異なります。当人同士でも『へー、○○さんはそう思うんだ』と新たな気付きがあったようです。そこからさらに話が展開して、“生”の意見がたくさん集まりました」(松井さん)
では、デメリットはないのだろうか? 松井さんにいくつか懸念点を挙げてもらった。
1つ目は「募集ページには主催企業名とユーザーに聞きたい内容が公開されているため、企業の動向が漏れるのではないか」という不安だ。確かに世の中にまだ出ていない商品やサービスについて募集すると競合企業にも筒抜けになる可能性はある。
2つ目の課題として挙がったのは、当日の進行面についてだ。レストランやカフェを利用するゴチソーの場合、メニューや個室の有無などの確認も利用企業の担当者が行う。また、料理をオーダーしたり、取り分けたりといった通常のグループインタビューにはない要素にも対応しなければならない。
「食事をしながら話を聞くとなると時間配分が難しいことが分かりました。当日の進行表は作ってあっても、どのタイミングで料理が出てくるのかまでは把握できません。インタビューが白熱すると料理に手つかずのお皿が残されていることもありました」(松井さん)
松井さんは3人組インタビューを5回実施した。進行の勘所は回をこなすごとにつかんでいったといい、最終的にはスタッフ3人で進行役、書記、配ぜん担当という役割を分担することにしたそうだ。
ほかにもテープ起こしやリポート作成といった事後作業もある。しかし、このような工数増があったとしても、松井さんは今後もゴチソーを利用したいという。ユーザーのホンネが聞ける機会は、苦労をしてでも手に入れたいものなのだろう。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.