これに対して 「大規模介入 (ラージ・スケール・インターベンション)」もしくは、「ホールシステム・アプローチ」と呼ばれる組織開発手法では、変化を起こすずっと前の段階で、関係する部署すべてから主要なメンバーを集め一堂に会し、将来の全体像を構想します。
危機のときや変革期には、ついついメンバーの元気も失せがちです。だからポジティブ心理学の組織への応用や、ホールシステム・アプローチの別の方法では、AI(Appreciative Inquiry)という方法をとることもあります。これは自分のよいところや、自分の組織のよいところを見据えながら、将来像を練るという手法です。これらの方法については邦訳書が出ていますし、さらにこれからも出版されるでしょうから、本格的に学びたい人は参考にしてください。
このようなプロセスをとったほうがよいアイデアも生まれ、前向きに議論が進み、さらに重要なこととして、描いたビジョンに対して「自分たちがかかわった」というコミットメントの意識を持って、そのビジョンの実現により熱心に取り組むことができるのです。
その結果、変革プロジェクトの実行段階での意気込みが変わってきます。自分たちの考えが反映された改革案なのですから、これは当然です。
人は、他人から与えられた目標に対して本気になることはなかなか難しいです。営業部などで上から与えられた数字目標を、現場のスタッフは「絵に描いた餅」として受けとってしまうことがしばしばあります。目標を達成することができなくなる原因がここにあります。だからこそ「目標づくり」の段階から、多くの人にかかわってもらうことが大切なのです。
ゼネラル・エレクトリックの「中興の祖」と呼ばれた名経営者であるジャック・ウェルチは、「そもそも人をエナジャイズする(元気付ける)ものでなければ、それはビジョンではない」と見なしていました。数字目標を示すだけでは、エナジャイズにはなりません。
今いる組織で、何か変革の必要がある。何か新しい試みを取り入れなければならない。そう感じるならば、上から指示が降りてくるのを待つのではなく、現場の人たちが集まって話し合い、ビジョンを共有して実行に移すことが、とても大切なのです。
時間的に切迫しているときなど、上層部が数名で変革の全体像を決めざるを得ない場合も、組織の全体を反映するだけの参加者を集めるホールシステム・アプローチの可能性をまず優先すべきです。
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