技術の進歩によって人の働き方は変わりました。10年、20年後には、さらに大きな変化が起こると考えられていますが、それを今、不安に思う必要はありません。
本連載は、諸富祥彦著、書籍『「働く意味」がわからない君へ ビクトール・フランクルが教えてくれる大切なこと 』(日本実業出版社)から一部抜粋・編集しています。
「希望の職業に就けていない」
「今の部署ではやる気が起きない」
「上司が評価してくれない」
「失敗するのが怖くて動けない」
本書は、このようなビジネスパーソンが抱きがちな48の悩みに、ビクトール・フランクルの言葉と彼が創始したロゴセラピーの考え方をもとに答えます。
ロゴセラピーとは、フロイトの「精神分析」、アドラーの「個人心理学」に続く3つめの潮流として位置付けられている“生きる意味”の発見を援助する心理療法です。
「あなたには、あなたにしかできない使命がある」。『夜と霧』の著者であり、人生の意味を見つめ続けたフランクルが贈る運命のメッセージです。
日々の仕事に「意味」を見い出し、「使命感」を感じて取り組むためのヒントが詰まった一冊です。
多くの人が指摘しているように、10年、20年後には、人間の働き方に大きな変化が起こると考えられています。
しかし、それを今、不安に思う必要はあるのでしょうか。
万人は皆、どんな場合にも自分を変えて行く機会に恵まれているのだ。自分を変えて行く自由があり、そして、何人も自分のこのチャンスと自由を活用する権利は決して拒まれるべきではない。
(『現代人の病』)
時代の変化は速いです。iPhoneやiPadの出現によってビジネスモデルはかなり変化しました。けれども、20年前にiPhoneやiPadの存在を前提にしたビジネスモデルを考えることができた人は誰もいなかったはずです。
大ざっぱな統計調査という枠内で、日本の省庁も日本の未来を予測しています。けれども、可能なのはせいぜい人間をひとまとめにした大ざっぱな未来予測だけです。
1人ひとりの人間は、常に変化しているので本質的に未来予測は不可能なものなのです。ですから、10年、20年後の自分がどうなるかを考えすぎることには意味がありません。
プランド・ハップンスタンス(Planned Happenstance)理論を唱えたジョン・D・クランボルツ博士も、「人生の長期的な計画は、立てすぎるとよくない」と警告しています。長期的な人生の計画を立てすぎると、人生計画に自分が縛られてしまって、身動きできなくなり不自由になってしまうからです。
これだけ変化の速い時代ですから、何十年というような長期的な視点ではなく、3年とか5年程度のスパンで物事を考えていくほうが理にかなっています。それ以上先のことを予測することは、誰にも不可能なことなのです。
誰にも未来を予測できないのですから、どんな状況に置かれても未来をあきらめる必要はまったくありません。
見込みがないとはどういう意味なのであろうか。人間はその未来を決して予言することはできない。未来に関する知識をもっていたら、それは直ちに彼の将来の行動に影響するであろうからして、それだけでも決して未来のことを予言できない。
(『死と愛』)
ここでフランクルが言わんとしているのは、たとえば重い病にかかって、自分の人生にはもう未来はないと考えられるような状況にあっても、私たちは決して絶望してしまう必要はないということです。
なぜならば、今この瞬間に人生は絶えず新しい問いを発してきており、私たちにできることやなすべきことは、ただこの瞬間の人生の問いにどう答えるか――それだけだからです。
それ以外に人間ができることは何ひとつなく、したがって、する必要もないのです。
人生のそれぞれの瞬間は、「さて、お前はこの人生の瞬間に何をすることができるのか」という問いを絶えず発してきています。私たちは、この問いを正面から引き受け、それに答えることを求められています。そして、そのことだけに集中すればいいのです。
あなたには未来のことを思いわずらったり、過去のことをくよくよ悔んだりしているひまはありません。今この瞬間に人生があなたに求めてきているもの、呼びかけているものに、あなたがどう答えるか──それにすべてがかかっているのです。
それ以外の一切のことは、考える必要がありません。
未来がどうなるのかは、誰にも分かりません。未来のことを思いわずらうのはやめにしましょう。それはただ、余計な不安を生むだけです。
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