観光列車の次のブームは廃線かもしれない杉山淳一の「週刊鉄道経済」(1/4 ページ)

» 2017年02月10日 07時30分 公開
[杉山淳一ITmedia]

杉山淳一(すぎやま・じゅんいち)

1967年東京都生まれ。信州大学経済学部卒。1989年アスキー入社、パソコン雑誌・ゲーム雑誌の広告営業を担当。1996年にフリーライターとなる。PCゲーム、PCのカタログ、フリーソフトウェア、鉄道趣味、ファストフード分野で活動中。信州大学大学院工学系研究科博士前期課程修了。著書として『知れば知るほど面白い鉄道雑学157』『A列車で行こう9 公式ガイドブック』、『ぼくは乗り鉄、おでかけ日和。 日本全国列車旅、達人のとっておき33選』など。公式サイト「OFFICE THREE TREES」ブログ:「すぎやまの日々」「汽車旅のしおり」、Twitterアカウント:@Skywave_JP


 日本全国の鉄道路線を踏破した「乗り鉄」には、主に5つの進路がある。新線開業のたびにタイトルを保持しつつ、「ロープウェイや遊覧鉄道の制覇にチャレンジする」か、「乗れなかった廃線を訪れる」か、「海外の鉄道に向かう」か、「2週目を始める」か、「他の趣味に移行する」か。もちろん、現役路線に乗りつつ、廃線を巡るという人もいる。

 「廃線巡り」は鉄道趣味の奥深さを示す分野だ。実用面の輸送利用が終わり、観光用途でも維持できなかった鉄道路線が廃止になる。しかし、廃線や廃車両には新たな観光価値が生まれる。産業遺産巡り、廃墟探訪のような楽しさだ。城巡りにも通じる。発見と想像の遊びと言っていい。理屈で語るより、NHKの『ブラタモリ』の面白さと言えば分かりやすい。発見と想像のおもしろさ、旅の本質である。

 私は「乗り鉄」だから現役路線重視だけど、廃線を旅する人は多いし、私も経験がある。20年ほど前に北海道、旧国鉄広尾線の廃線跡を巡った。廃止される前に乗りに行きたかったけど、カネも時間もなかった。それが悔しくて、廃止されて何年も経ってから行ってみた。

旧国鉄広尾線の幸福駅は有名な廃線施設の1つ。近隣の愛国駅と合わせて、「愛国から幸福へ」の片道切符が話題になった。現在も近隣の土産物店できっぷの模造品を販売しており、結婚祝いなどで使われている(出典:flickr、Tzuhsun Hsu氏) 旧国鉄広尾線の幸福駅は有名な廃線施設の1つ。近隣の愛国駅と合わせて、「愛国から幸福へ」の片道切符が話題になった。現在も近隣の土産物店できっぷの模造品を販売しており、結婚祝いなどで使われている(出典:flickr、Tzuhsun Hsu氏

 帯広から広尾まで、鉄道路線に並行する路線バスに乗った。さらに、終点の広尾から路線バスを乗り着いて、建設予定区間の襟裳まで行き、日高本線に乗って石勝線経由で帯広に戻る。翌日はレンタカーを借りて各駅の跡を巡った。幸福駅は今でも観光地だ。ほかにも駅舎や記念碑が残る駅がある。線路ごと畑になってしまった場所もある。かつての賑わいを想像し、線路や鉄橋の痕跡を発見する。探検家になった気分でおもしろかった。

 都内にも廃線跡がある。都電の廃線跡になった歩道を歩いた(関連記事)。きれいに整備されつつ、往時の痕跡が残っていた。大手私鉄では西武鉄道の安比奈線が印象に残っている(関連記事)。安比奈線は当時は廃線ではなく休止線だった。通勤路線として復活し、車両基地を作る計画もあった。しかし構想は進展せず、廃線同然。復活したらどこに駅ができて、電車に乗ったら、どんな車窓だろうと想像した。

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