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プロゲーマー「ウメハラ」の葛藤――eスポーツに内在する“難題”とは梅原大吾が提示する「新しい仕事」【前編】(2/2 ページ)

» 2019年02月19日 06時45分 公開
[河嶌太郎ITmedia]
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eスポーツに内在する「難題」

――梅原さんから見て、現在のeスポーツの課題には何があるとお考えですか。

 選手間の競争というよりも、むしろゲームメーカー間の争いこそがeスポーツになってしまっている部分もあると感じています。eスポーツを名乗る新しいゲームが雨後の筍(たけのこ)のように登場して人気を競っているわけですが、スポーツに例えたら、この現象は新しい競技が次々登場し続けているようなものなのです。

 野球だったら野球、サッカーだったらサッカーというふうに競技に求められるものは普通はほとんど動かないわけですが、ゲームの世界ではこれがどんどん動いてしまいます。eスポーツのプレイヤーというのは、この次々に出るゲームのタイトルに合わせた練習と対策を余儀なくされます。

 本来、あくまで戦うのは選手同士のはずなのですが、まずメーカー同士の争いがあるわけですね。だからこそお金がものすごく動くメリットもあるのですが、これは裏を返せば、流行らなくなったゲームのプレイヤーというのは、eスポーツのプレイヤーではないんですよ。その時そのゲーム作品が注目されている間はみんな舞い上がりますけど、人気がなくなると「あれっ?」てなる。eスポーツ選手を名乗っていても、それはそのゲームが流行っているときだけでしょ、という問題が生まれてしまうんですよね。

 つまり、選手にとってみればeスポーツというのは長続きしにくいし、つぶしがきかなさすぎる。今はまだこの問題は浮上していないですが、そのうち無視できない問題になってくるでしょうね。

――選手は大きなリスクを強いられているわけですね。

 そうですね。だから「ゲームさえうまきゃいいんでしょ」って言っている人達は、そこを考えていないと思います。どんなゲームにも対応できるほどうまい人がいれば別ですけど、現実には格闘ゲームだけとか、パズルゲームだけうまいという人しかいませんから、とてもゲームがうまいというだけでは、通用する問題ではありません。

――同じ格闘ゲームでも、例えば「ストII」が「餓狼伝説」(SNK)になっただけでも全然違いますものね。

 それだけでも全然違います。そもそも格闘ゲームというジャンルそのものがなくなる可能性だってあるわけです。自分は格闘ゲームでさえあればなんとかなる自信はあるんですけど、それ以外だとさすがにeスポーツプレイヤーは名乗れないですね。プロゲーマーというのはそういうギリギリのところでやっているんです。

――そのことに対して恐くなったりはしないですか。

 もちろんありました。一昨年か去年あたりは、私がプレイするゲーム自体に対して危惧の声が上がっていたので、そういう不安もあったんですが、今では先のことを考えても仕方がない、今を頑張ろうと割り切れるようになったので、もう何も恐くないです。でも不安に思っているeスポーツ選手は多いと思いますね。

phot 「ウルトラストリートファイター4での最高ランキング」と「最も視聴されたビデオゲームの試合」のギネス証書(Yusuke Kashiwazaki / Red Bull Content Pool)

親の価値観で決めちゃいけない

――梅原さん自身、プロゲーマーになれたのは何が原因だとお考えでしょうか。

 両親の理解に助けられたところはとても大きいですね。うちの父親の教育方針として、「好きなことを見つけたらとことんやれ」というのがありました。それに対して親は口を出さないと。実は梅原家というのは、ひいおじいちゃんの考え方で、おじいちゃんは自分のやりたいことができず、そのおじいちゃんの考え方でうちの父親はやりたいことができず、というふうに悩まされてきた歴史があります。そこで親父は、時代によって考え方が違っていくから、親の価値観で子どもの将来を決めちゃいけないとずっと心に決めていたみたいです。

 だから、実際ゲームをやめろって言われたことは一度もないんですよ。そのおかげで20代に麻雀にのめり込んだりして、気苦労をかけさせたとは思います。ただ、プロになる時も両親に背中を押してもらった部分もあります。ですから、自分がプロゲーマーになれたのは両親のおかげともいえるでしょうね。

phot 両親は「ゲームをやめろ」とは言わなかった
phot ギネス表彰時のウメハラ(Yusuke Kashiwazaki / Red Bull Content Pool)

著者プロフィール

河嶌太郎(かわしま たろう)

1984年生まれ。千葉県市川市出身。早稲田大学大学院政治学研究科修士課程修了。アニメコンテンツなどを用いた地域振興事例の研究に携わる。近年は「週刊朝日」「AERA dot.」「DANRO」「Yahoo!ニュース個人」など雑誌・ウェブで執筆。ふるさと納税、アニメ、ゲーム、IT、鉄道など幅広いテーマを扱う。


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