#SHIFT

退職しない、できない日本 「井の中の蛙」化で昇給額も低水準退職は「権利」(2/3 ページ)

» 2020年02月21日 05時00分 公開
[鬼頭勇大ITmedia]

退職しないし、できない日本

 なぜ、日本の昇給額や給料はここまで低いのか。

 調査では、「転職する理由」も対象者に聞いた。すると、各国と比較して日本だけ“特異”な結果が明らかとなった。日本以外の4カ国、地域では「給与」と答える人が最も多かったのに対し、日本では「新たな挑戦」と答えた人が最も多く、56%だった。「給与」と答えた人は54%。

日本は「お金」より「挑戦」?(出所:ヘイズ アジア給与ガイド2020)

 しかし、この結果から日本の労働者が給与よりも「挑戦」を重視しているため、昇給が抑えられているとは言い切れない。同社が以前に行った、労働者のリテンションに関する調査で「転職しない理由」を聞いたところ、日本の労働者が最も多く回答した理由は「Salary or benefit package(給与、または福利厚生)」。日本は「建前の社会」といわれることもあるが、労働者の本音としては「お金」や実利もやはり大事なようだ。また、少しずつ「実力主義」が浸透しつつあるとはいえ、日本企業は依然として「年功序列」の給与体系が多い。転職することと、現職に残って徐々に給与が上がっていくことを比較して後者を選ぶ“保守的”な人が多いこともうかがえる。

 今回行った別の設問では、「自らのスキルが5年後も通用するか」という質問に対し「はい」と答えた割合は日本が最も高く、72%。自信があることは良いことなのかといえば、そうでもないようだ。担当者は「日本は『学ぶ』という意欲を持つ人が少ない。年功序列のレールに乗って昇給することが約束されていることが多いので、学ぶ必要がないともいえる。だから、別に学ぶ必要もない、という意味で自信を持つ人が多いのではないか」と分析する。つまり“井の中の蛙大海を知らず”ということだ。

日本の労働者は「井の中の蛙」?(出所:ヘイズ アジア給与ガイド2020)

 年功序列で給料が上がるので、会社に居続ける。新しいスキルを身に付けても、会社では評価されないことが多いので特に新しいことを学ぶ意欲も必要もない。そうなると、人材としての市場価値も上がらず、転職もしない(できない)。さらに、労働者は社外の給与事情を知らないし、本音は押し隠してお金のことをあまり口に出さない。つまり、自分がこの先どのくらい給料をもらえるのかも分からない。そうなると、昇給や給与を抑えても経営者の痛手にはならない――。こうしたことは以前から指摘されている「日本式雇用慣行」の問題点でもあるが、これ以外にもある日本の“特異性”を担当者は挙げた。

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.