例えば、国会開催期間中のタクシー代として約22億円、そして残業代に約103億円という血税が無駄に消えている。過酷な労働環境を官僚に強いることで、彼らの正常な判断力が削がれてしまい、業務遂行や政策立案に悪影響が及ぶこともあるだろう(人間の脳の集中力が持続するのは起床後12〜13時間程度とされ、その後は能率がどんどん低下するといわれる)。
もっと問題なのは、国家中枢において効率を無視した紙と対面ベースのやりとりが行われ、IT化もテレワークも進んでいない状況では、国全体の改革的な政策が進まない恐れがある、という点だ。
民間企業がいくらIT化を進めても、行政手続で紙や印鑑が必要である以上、ペーパーレス化も脱ハンコ化も、イノベーションも見込めない。現状の「過酷な長時間労働を耐え抜いた者だけが出世できる」ような組織では、構成員の多様性を保てず(育児しながら働きにくいため、メンバーが「家庭を省みず、残業上等でハードワークをこなせる人」だけに固まってしまう)、政策に幅広い国民の意識を反映することもできなくなる。
このような悪弊も徐々にではあるが改善の兆しを見せ始めている。その端緒が、先日1月21日に「質問取りの対面自粛」を与野党で合意したことだ。
【参考】「質問取り」対面自粛、与野党が合意 国会改革に一歩(日本経済新聞)
野党にとっては、あえて深夜に質問通告を行うことはいわば「国会戦術」の一つでもある。それでもこうした合意に至ったのは快挙といえよう。これには、コロナ禍において感染リスクのある対面接触を避ける配慮がなされた背景もあるが、20年末から民間有志主導で行われていた署名活動と、それに伴うメディア戦略も奏功したようだ。
【参考】各省庁を22時から翌朝5時は完全閉庁し、緊急の業務はテレワークで行う体制を作ってください。(change.org)
この署名には2万7000人以上の賛同が集まっており(2月5日午後4時時点)、結果は河野大臣に直接届けられた。署名活動の最中、主催団体は衆議院および参議院の事務局に対して「国会議員の質問通告時間の遅さ」に関する情報公開請求を行ったのだが、結果的に全請求が拒否されてしまったという。
その後、主催団体は結果をそのまま各メディアに伝え、結果を受けたメディア側が「これほどまでに税金で残業代を払うことになるのに、なぜ深夜に通告するのか? 今後はどう改善するのか?」と、情報公開請求以上の取材攻勢を野党各党にかけたのだという。こうした経緯から野党もようやく問題の重大さに気付き、合意へと至ったようだ。
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