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50代は本当にお荷物か? “働かないおじさん”問題に悩む企業の勘違い河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(3/3 ページ)

» 2021年11月26日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]
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 繰り返しますが、確かに、働かない、死んだふりをする、“困った中高年”はいます。しかし、私が20年以上やっているインタビュー調査では、役職定年などで給料を減額され、部下が上司になり、一度はやる気を失うものの、そこから再起する人がほとんどでした。

 部下たちに迷惑をかけないように、生き延びようと踏ん張っている。なのに、「人=コスト」としか見ない企業が、他の世代より賃金が高い世代を毛嫌いし、彼らを「まなざし」で拘束する。つまり、「中高年の能力を会社が引き出していない」ことが、働かないおじさん問題の本質なのです。

 かつての日本の職場は、人間の摂理に合致したいくつも大切な制度を有し、人が秘める能力を最大限に引き出す「理想郷」でした。米スタンフォード大学経営大学院教授を務めた組織行動学者のジェフリー・フェファー氏の名著『人材を活かす企業』には、日本企業の長期雇用がいかに働く人たちの労働意欲を高め、能力を引き出し、組織力を高めているかが分析されています。 日本企業の採用方法、入社後の教育、年功賃金のメリットを米国と比較しながらつづり、米国も見習うべきとしました。

 ところが、残念な日本の経営者は人件費を減らすことばかりに傾注するようになった。1990年代に輸入された「成果主義」も、その目的はコストカットです。「40代以上はいらん」と希望退職を募りまくり、非正規雇用を増やしまくった。 コロナ禍で注目を集めるジョブ型もしかりです。

 今、必要なのは経営者自身も変わること。最善策は「リスキリング」を取り入れることです。経営者も成長し、中高年の能力を引き出すことでしか、労働力不足を乗り切る方法はありません。

リスキリング(提供:ゲッティイメージズ)

 リスキリングとは、Reskillingという英単語で見れば分かる通り、職業技能の再教育、再開発(reskill)を意味しています。ここで重要なのは「Reskilling=学び直し」ではないってこと。Reskillingは単なる学習の手段でなく、結果につながるものである点が「学び直し」と大きく異なります。

 つまり、経営者のちゃんとした「経営戦略」があって初めて意味を持つ教育であり、技能だけでなく、適応力、コミュニケーション能力、さまざまな企業や人たちと協働する能力、新しい仕事を創造する能力を強化する「我が社の一員であるメンバーへの投資」です。

 リスキリングはいわば「未来の雇用」のためのものであり、「新しい価値」を生むための、企業全体の取り組みです。要は、一部の社員ではなく、ペーペーから経営サイドまでの全人材に対してリスキリングが行われて初めて意味を持ちます。

 リスキリングに世界が注目するのは、高齢化が進む先進国では労働人口が減少する傾向にあるので「今ある人材をなんとか使わなきゃ!」という危機感と、社外から採用するコストより「我が社の社員」に投資した方がコスパがいいからに他なりません。

 労働力不足を補うために、外国人労働者の無期限滞在許可の推進に乗り出したとされていますが、目の前にいる「まだまだ余力ある人材」を使ってほしい。「中高年は働かない」「中高年はコスパが悪い」と嘆くだけでなく……。

河合薫氏のプロフィール:

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 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了。千葉大学教育学部を卒業後、全日本空輸に入社。気象予報士としてテレビ朝日系「ニュースステーション」などに出演。その後、東京大学大学院医学系研究科に進学し、現在に至る。

 研究テーマは「人の働き方は環境がつくる」。フィールドワークとして600人超のビジネスマンをインタビュー。著書に『他人をバカにしたがる男たち』(日経プレミアシリーズ)など。近著は『残念な職場 53の研究が明かすヤバい真実』(PHP新書)、『面倒くさい女たち』(中公新書ラクレ)、『他人の足を引っぱる男たち』(日経プレミアシリーズ)、『定年後からの孤独入門』(SB新書)、『コロナショックと昭和おじさん社会』(日経プレミアシリーズ)がある。


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