ストレージ仮想化で選択を迫られるITマネジャー

ストレージ仮想化技術の恩恵を享受したいと考えているITマネジャーは選択を迫られることになりそうだ。ストレージ業界の大手ベンダーは、それぞれ異なる方向を目指しているからだ。

» 2005年03月31日 15時25分 公開
[IDG Japan]
IDG

 IBMやEMCをはじめとするストレージ業界の大手ベンダーは、それぞれ大きく異なる方向を目指しており、ストレージ仮想化技術の恩恵を享受したいと考えているITマネジャーは選択を迫られることになりそうだ。

 IBMは3月30日、同社の方向を選択した顧客を鳴り物入りで紹介するとともに、ほかの企業のIT部門も同様の選択をすべき理由をアナリストとプレスに説明した。

 専門家は、どちらのアーキテクチャがユーザーに適切かという判断を留保している。IBMの宿敵であるEMCが別の方式を提供して、両方のアーキテクチャの比較テストができるようになるまでこの議論は決着しないだろう、と指摘する向きもある。

 「物理的なストレージ/コンピューティング/ネットワーキングリソースの論理的表現を扱うことを可能にする仮想化技術は、将来のデータセンターの中核となる技術だ」と話すのは、マサチューセッツ州ホプキントンにある調査会社Taneja Groupの創業者、アルン・タネジャ氏だ。

 同氏によると、一般的な企業における大規模かつ多様なストレージシステムおよびネットワーク上のどこにデータが物理的に存在するかにかかわらず、単一の論理リソースとしてデータを把握・管理することができれば、IT部門にとって大幅な生産性の改善とコストの節減が可能になるという。

 この可能性の実現を目指すIBMでは、コンピューティングとストレージの両方を包含する仮想化戦略を推進する考えだ。これは、長きにわたってメインフレーム上でストレージ仮想化ツールを提供してきた同社の強みだと言える。またIBMは、「SAN Volume Controller」(SVC)という実際の製品も既に出荷中だ。

 SVCの最大のライバルになると目されているEMCの「Storage Router」は盛んに喧伝されているものの、市場ではまだあまり知られていない存在だ。同製品は今年4〜6月期にリリースされる予定だ。

 アーキテクチャ面における両製品の最大の違いは、IBMの製品はインバンド方式(アプリケーションとストレージリソース間のデータパスにコントローラを配置する方式)を採用しているのに対し、EMCはアウトバンド方式を採用しているという点だ。

 IDCでストレージシステムの調査を担当するリチャード・ビラーズ副社長は、「EMCの場合、ルータがインテリジェント型スイッチ(Cisco Systemsのスイッチなど)と通信することによって接続を確立し、それからアプリケーションとストレージ同士が直接会話する」と説明する。

 「IBMの手法は、ストレージアレイにインテリジェント機能を持たせないというものだ。そのメリットは、共通の管理スキームを使えるという点にある。EMCはアレイにインテリジェント機能を与えることより、情報をルーティングするだけで済むようにするという方式を採用する。だがこの手法は、データレプリケーションなどの機能をサポートしないため、個々のディスクアレイにソフトウェアを追加する必要がある」とビラーズ氏は話す。

 タネジャ氏は、両ベンダーのアプローチはともに有望であり、第一段階の購入では、ユーザーは既に取引のある主要なストレージベンダーを選ぶ可能性が高いと考えている。そうだとすれば、EMCの方が有利だと言えるかもしれない。IDCの推定によると、2004年の外付けディスクストレージシステムでEMCは21%の市場シェアを確保したのに対し、IBMのシェアは12.6%だった。また、EMCは市場シェアを18%伸ばしたのに対し、IBMはシェアを約4%ダウンさせた。

 ストレージ仮想化に向けたユーザーの動きはゆっくりとしているようだ。現時点で、IBMの技術を採用した企業は約1000社にとどまっている。IBMのシステム/技術部門で仮想化ソリューションを担当するナイジェル・デッサウ副社長によれば、同社の顧客の半数近くが仮想化技術を導入する予定はまだないとしているが、顧客らは同技術の存在は認識しているという。

 一部の顧客は、IBMの仮想化計画のもう1つのコンポーネントである「SAN File System」を採用した。例えば、CERN(European Particle Physics Laboratory:ヨーロッパ粒子物理学研究所)は3月30日にIBMとの共同発表で、「Large Hadron Collider Computing Grid」というシステムのコンピューティングニーズのシミュレーションでSAN File Systemを内部でテストして良好な結果を得たことを明らかにした。IBMによると、このグリッドは2007年に運用開始の予定で、1年当たり1500万Gバイトのデータを生成する見込みだという。

 さらにIBMは、CiscoのIT部門がSAN Volume Controllerを購入したと発表した。

 カリフォルニア州ヘイワードにあるPund-IT Researchのチャールズ・キング氏は、「これまでユーザーの選択肢は極めて限られていた」と指摘する。

 「ここにきてIBMに加え、EMCおよび日立データシステムズなど、ユーザーにとって選択肢が増えてきた。だが最終的には、3社の製品がすべて市場に登場し、これらの製品を並べて比較テストを行えるようになるまでは、どれがベストかという答えは出ないだろう」(キング氏)

Copyright(C) IDG Japan, Inc. All Rights Reserved.

注目のテーマ