2.0登場を機にマイクロソフトからの攻勢がメディア報道された。Officeファイル互換を重視する傾向にあるが、本質はベンダーロック回避にある。OpenOffice.orgは、オープンスタンダードに注目する世情からもビジネスアプリケーションの今後を担う存在だ。
ゴールデンウィークが終わりました。皆さん、バカンス気分から抜け出していますか? 次の連休は7月までありません。バリバリ仕事を始めましょう。
さて、今月もOpenOffice.orgとそれを取り巻く出来事をコミュニティーを中心とした視点でお伝えしていきます。
OpenOffice.orgにセキュリティホールが発見されたため、その対策方法を発表しました(関連リンク)。対象となるバージョンは、1.1.xおよび2.0の開発版/ベータ版です。このセキュリティホールは、「ヒープオーバーフロー」と呼ばれる脆弱性です。
内容は、Microsoft Wordフォーマットの細工を施されたファイル(拡張子がdocおよびdot)を読み込むと発生するものであり、場合によっては、OpenOffice.orgの動作が不安定になったり、異常終了する恐れがあります。また、技術的にほぼ不可能と考えられますが、Microsoft Wordファイルに忍び込ませてある悪意のあるプログラムを実行させられる可能性があります。
このため、セキュリティアップデートを行っていないOpenOffice.orgでは、Microsoft Word形式の信頼できないファイルを読み込まないことをおすすめします。
対策としては、1.1.4のWindows版では、配布しているセキュリティアップデートプログラムを実行します。Linux版では、配布しているファイルを手動で差し替えます。1.1.3以前のバージョンでは、1.1.4にバージョンアップしてから、セキュリティ対策を実行すればよいです。また、OpenOffice.org 2.0開発版では、1.9.m95で対応しています。それ以前のバージョンでは、Microsoft Wordフォーマットの信頼できないファイルを読み込まないでください。ベータ版は、1.9.m79に相当します。同時に、StarSuite7もアップデート版が公開されています(関連リンク)。
ベータ版に続いて、今月も開発版がリリースされました。開発版は、およそ2週間に一度のペースで公開されています(関連リンク)。現在は、1.9.m100が最新公開です。日本語化は、英語版のインストール後にランゲージパックを導入すればよいです(関連リンク)。
なお、この開発版は、すでにベータ版以上の品質に上がっています。特に、データベースツール周りが安定してきたようです。また、先月の連載で紹介した記事や、5月10日既報の「OpenOffice 2.0に対し、フリーソフトウェア支持者が「Javaを使いすぎ」と批判」のように、JRE(Java実行環境)がインストールされていない環境では、不要なエラーメッセージを表示していました。しかし、その後の変更でエラーメッセージが表示されなくなり、Javaへの依存度はOpenOffice.org1.1.xとほぼ同レベルになっています。
Mac OS X版として、Ozk氏による独自ビルド版1.9.m96が公開されています。メタパッケージになっているので、2つのファイルをダウンロードした後、全部の*.pkgを同じフォルダに入れて「Install_OOoMac_ja.mpkg」をダブルクリックしてインストールすればよいです(関連リンク)。
現在、Sun Microsystemsと共同でTCMテスト(Test Case Maintenance)を行っています(4月25日〜5月13日)。これは、多くのバグを洗い出すための目的であり、テストケースに従って動作確認を行うものです。2.0のユーザーインタフェースとオンラインヘルプの品質向上が期待されます。テストケースが日本語化されたことから、ユーザー会でも参加者を募ってテストに参加しています。
2.0のリリースに向けての準備も着々と進んでいます。
OpenOffice.orgコミュニティのbizdevプロジェクトは、世界各地でOpenOffice.org向けサービスを提供する企業のConsultants Directory(コンサルタント一覧)を公開しています(関連リンク)。ここには、300を超える企業が掲載されています。
現在、この日本版を準備している最中です。国内では、OpenOffice.orgを対象にしたビジネス提供を行う企業は、まだほとんど見あたりません。しかし、このようなサービスの充実がOpenOffice.orgの利用でも欠かせないものと筆者は考えています。サービス提供を検討している企業/団体/個人事業者からの情報も募集しています(関連リンク)。
Mac OS X版の本命とも言える「Neo Office/J」に、バージョン1.1リリース候補が公開されています(関連リンク)。こちらはAqua上で動作するものであり、ほかのMac OS Xアプリケーションと同様に、メニューバーが画面上部に表示されます。ことえりやATOKといったOS Xネイティブの日本語IMEも動作します。
OpenOffice.orgコミュニティーのNative Language Confederation(ネイティブランゲージ評議会、以下N-L)のリードであるCharles-H. Schulz(チャールズ・シュルツ)氏が、ディスカッションMLに参加してくれました。
N-Lは、OpenOffice.orgコミュニティーにある言語ごとのコミュニティプロジェクトであり、日本ユーザー会も「Japanese N-L Project」という位置づけになっています。シュルツ氏は、このN-Lプロジェクトの集まりであるN-L評議会のリーダーを担い、パリに在住しています(日本の文化にも興味を持っており、宮本武蔵の五輪書を読んでいるそうです)。
彼は、各地のN-L Projectを訪問するN-Lツアーを行っており、その最初の訪問地が、日本ユーザー会でした(あくまで、インターネット上の話ですが)。4月2日から13日までの滞在中には、多くのコミュニケーションが行われました。英語が苦手な人も多いので、「こうへい」氏と平野氏が通訳されており、やり取りの模様は、ディスカッションMLの過去ログで読むことができます(関連リンク)。
マイクロソフトは「改めて考えるOfficeソフト、デスクトップOSの価値」をテーマにしたプレスセミナーを開催し、OpenOffice.orgとの比較情報を公開しました(関連記事)。
まずは、マイクロソフトが、わざわざOpenOffice.orgを取り上げてくれたことに驚きました。知名度、普及率、人気、儲けの上でも、まだまだ敵わないと感じていましたが、ちょっとだけ脅威と思うことからでしょうか。
各メディアによるレポートによると、MS Officeとの完全な互換性がないことがリスクになり得るとコメントしたようです。しかし、これをリスクと呼ぶのは、ピンと来ませんでした。それよりも、少なくはないユーザーが、MS Officeのバージョン間で互換性が十分確保されていないというリスクのために、バージョンアップをためらっているのではないでしょうか? いや……、もしかすると危険性を感じているのはマイクロソフト自身なのでは?
もちろんOpenOffice.orgにとっても、MS Officeとの互換性を高めることは、とても重要なものです。しかし、ユーザーにとっては、特定ベンダーのソフトウェアと、そのファイル形式に囲い込まれてしまうリスクのほうが重要な気がしないでしょうか? その点、OpenOffice.orgのファイル形式は、「OpenDocument」と呼ぶオープンな標準になっています。
実は、OpenOffice.org自体が、OpenDocumentの一実装に過ぎません。そろそろ企業は、IT投資の有効性を確保しながら、ベンダーロックインを回避する運用も考える必要があるのではないでしょうか。
折しも、日本OSS推進フォーラムは、オープンソースソフトウェアのTCO(Total Cost of Ownership)を解説した資料として「オープンソースソフトウェアのTCOガイド」を公開しました(関連リンク)。これは、サーバ向けのTCOレポートについて評価項目を明確にするものです。この中で『TCO評価は一種の自己アセスメントであると見なして、利用者自らがTCO評価項目を定義すべきであろう』と述べています。これは、Microsoft OfficeやOpenOffice.orgのようなオフィススィートでも当てはまることでしょう。
なお、プレスセミナーについての感想、追加情報は、筆者のBlogに書きました(関連リンク)。
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