“感情”を獲得したヒューマノイドが見る夢――「WE-4RII」の過去と未来コンテンツ時代の未来予想図(3/5 ページ)

» 2005年11月28日 17時00分 公開
[中村文雄,ITmedia]

3軸の心理空間を情動方程式で表現する

 人間の脳の機能を知能、感情、反射の3種類に分けると、反射については制御工学による多くの研究があり、知能については人工知能の研究が古くから行われている。しかし、感情については工学分野ではほとんど研究が進んでおらず、高西教授は、早稲田大学文学部で心理学を研究する木村裕教授に協力を仰ぐ。木村教授からアドバイスを受けて、文学部の図書館で論文を読みふけり、心理学関連の研究会に参加して、心理学をどのように工学に取り入れるかを考え続けた。

 その結果、情動方程式という感情を生成する基本的なメカニズムと、個性の違いを吸収する感受個性マトリックスと表出個性マトリックスから構成される心理モデルを考案する。

 情動方程式は運動方程式と同様に微分方程式で表現されており、「快−不快」「睡眠−覚醒」「確信−不確信」の3軸からなる心理空間での感情の動き(情動ベクトル)を定義している。

 「運動方程式は、ある時刻、ある場所で起きたことが、その後にも影響することを意味しています。このようなことを数学では力学系、またはダイナミックシステムと呼ぶが、人間の心もそれに似ていると思った」(高西教授)

 例えば、ある瞬間にとてもほめられて嬉しくなったとする。その後、失敗して少し怒られたとしたら、それほど悲しくならないだろう。嬉しさが継続していれば、少し悲しいことがあっても、嬉しいという感情が続くのだ。

「快−不快」「睡眠−覚醒」「確信−不確信」の3軸からなる心理空間と、情動ベクトルを表現する情動方程式

 この心理モデルでは、嬉しくなったときは3軸のうち「快、覚醒、確信」の方に情動ベクトルが向くことになり、怒られたときは、その反対に「不快、睡眠、不確信」へと情動ベクトルが向くことになる。心理空間は、「喜び、驚き、怒り、恐怖、悲しみ、嫌悪、通常」の7種類の感情に区分けされており、そのときの位置によって感情の種類が決定される。

上図の心理空間を7種類の感情で区分けした感情マッピング

 後述する感受個性マトリックスを見るとよく分かるが、多くの感情の動きは「快−不快」「睡眠−覚醒」の2軸で動く。それだけでは表現できないケースがあり、「確信−不確信」の軸が加えられた。「確信−不確信」の軸について説明しておこう。

 例えば、同僚から突然殴られたら“怒り”を感じるが、闇の中で突然殴られたら“恐怖”を感じるだろう。つまり、殴ってきた相手に関する情報に「確信」があれば“怒り”となり、相手が分からなくて「不確信」であれば“恐怖”となる。「快−不快」「睡眠−覚醒」という2軸の平面では、“怒り”と“恐怖”がオーバーラップしている部分があったが、「確信−不確信」という軸を加えることによって、2つの感情を区分けできるようになったわけだ。

 ただし、「不確信」であれば必ずしも“恐怖”となるわけではない。例えば、襲ってきたのがライオンと「確信」すれば“恐怖”の感情を持つはずだ。

 そのことについて、高西教授は次のように説明する。

「『確信−不確信』の軸は、われわれが文学的な語感で考えるものとは違います。自分に対してネガティブかポジティブかということも語感として入っている」

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