カーエレ産業は2012年に完全復活、IT業界のけん引役にアナリストの視点(1/3 ページ)

トヨタ自動車の赤字転落や米General Motorsの破綻など、自動車業界には逆風が吹き荒れている。それに伴い、ITとも関連の深いカーエレ業界の市場はどう変化するのか――。

» 2009年06月05日 08時00分 公開
[森健一郎(矢野経済研究所),ITmedia]

 世界最大のトヨタ自動車の赤字転落や米自動車大手General Motorsの破綻など、景気後退が直撃した自動車業界には逆風が吹き荒れている。自動車産業と強い連携があるIT業界もあおりを受け、その影響は避けられない。

 こうした中、矢野経済研究所では、「100年に一度」と言われる大不況を乗り越えた自動車業界やカーエレクトロニクス(カーエレ)市場がどう変質するかを分析した。自動車業界が従来型のビジネスから構造改革を迫られており、関連するカーエレ業界、さらにはIT産業にも変化が求められているからだ。

自動車産業とIT産業とのかかわり

 自動車産業とIT産業の関係は深い。その理由は2つある。1つ目は自動車産業が製造業の中で、IT関連の需要先として最重要視されているからだ。製造業向けのCADやCAM、CAE、PLM(製品ライフサイクル管理)、SCM(サプライチェーン管理)などの分野は、IT産業でも主要な製品をリリースしている。自動車産業向けのITシステムも多く開発され、それとともにIT関連の技術も進歩してきた。

 2つ目は、自動車部品のエレクトロニクス化が進む中で、組み込みソフトによってさまざまな車載システムが制御されるようになってきたことが挙がる。材料やデバイス、機器を扱う現場が連携を取りながら製品を開発する「すり合わせ技術」は、組み込みシステム開発の分野でも多く採用されている。製品の出来・不出来を決めるこの技術は、職人肌の技術者を育て、それが日本のソフトウェア産業の強みになっている。すり合わせ技術を継承する自動車向け組み込みソフトウェアの分野は、他国製品との差別化を図りやすい。

 2008〜2009年にかけて起こった世界的な自動車不況は、自動車業界に打撃を与えた。その余波は、有数の技術者を誇る日本にも及び、IT産業全体の成長を阻害する要因になりつつある。

世界乗用車の市場推移とカーエレの変質

 2009年における世界の乗用車販売台数は、2008年の8〜9割程度にとどまる見通しだ。景気後退を皮切りに、欧米の自動車メーカーは生産拠点の工場を休止し、従業員を解雇しながら、積み上がった在庫の販売を続けている。そのため新たに自動車を生産する馬力はない。

 一方で、中国やインドを筆頭とする発展途上国の市場は、少なくとも2008年以上の販売台数を達成できると予測される。また、2009年秋頃には世界での販売台数が底を打ち、2009年内には世界乗用車市場は下げ止まる見通しだ。好調だった2007年の乗用車販売台数の水準に回復するのは2012年になるだろう。

 今後出荷台数の増加分の大半を占めるのは、新興国市場である。市場が復活する2012年に販売される乗用車の多くは、世界各国の環境規制に対応している。そのため、新興国で乗用車を販売するには、「低価格かつ低燃費」であることが求められる。この時期に販売される乗用車は「ガソリンエンジン車からハイブリッドカー、電気自動車へ。また、高価格・高燃費のラグジュアリーカー指向から低価格・低燃費のコンパクトカー指向へ」という変質を遂げるだろう。

 求められる自動車像の変質に伴い、カーエレの位置付けも変わってくる。乗用車購買に対する消費者の意欲は従来よりも低くなっており、今後求められる乗用車は「コンパクトカーなのにお金を出しても惜しくない」ものに変わる。自動車メーカーは消費者の感性を率先して変えていく必要があり、そうした乗用車を仕上げるためのカーエレが一層求められる。

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