コラム
» 2009年07月19日 00時00分 UPDATE

日曜日の歴史探検:都市鉱山とレアメタル――現代の発掘現場

わたしたちの生活に溶け込んでいるレアメタル。今、その再利用を巡って盛んに議論が交わされています。現代の鉱床はリサイクルという形で操業されていくのかもしれません。

[前島梓,ITmedia]

 レアメタル再利用の動きが加速――そんなニュースが最近頻繁に取り上げられるようになっています。では、レアメタルとはどういったもので、なぜここにきてその再利用が加速しているのでしょうか。

 レアメタルについて、学術的な定義というものは実は存在しません。端的には、銅、鉛、亜鉛、アルミニウムといったいわゆるベースメタル以外はある意味すべてレアメタルだといえます。ここで、多くの人が抱くレアメタルのイメージは、「資源量が少ない非鉄金属」という認識が強いと思います。しかし、厳密に考えてみると、地域的に偏在し、かつ鉱物学的に放射性元素を含むことも多く、資源確保の上で難しい問題を抱え、そのためにコストが高く、結果として「生産量が少ない」ものがレアメタルであるといえ、必ずしも資源量で規定されているわけではありません。

 資源エネルギー省の所管である総合資源エネルギー調査会鉱業分科会レアメタル対策部会では、備蓄している7鉱種(Ni、Cr、Co、Mn、W、Mo、V)に加えて、希土類(原子番号57番のランタンから71番のルテチウムまでのランタノイドと、21番のスカンジウム、39番のイットリウムを加えた計17種類の元素)やTa、Inなど31鉱種をレアメタルとしています。これらは「クリティカルメタル」と表現されることもあります。

tnfig1.jpg レアメタルの鉱種(出典:経済産業省資料)

 ベースメタルや貴金属は、世界の主要な商品取引所、例えばロンドン金属取引所(LME)やシカゴ・マーカンタイル取引所(CME)、ニューヨーク商品取引所(COMEX)などで日々売買され、市場価格の透明性が確保されています。一方で、ほとんどのレアメタルは実需流通規模が小さく、公正な市場価格の形成維持が困難なため、商品取引所に上場していません。

何が問題になっているのか

 レアメタルの問題を議論するときには、その偏在性が取り上げられます。例えば南アフリカ共和国は世界全体の80%近くのプラチナ、70%以上のロジウムを産出しています。金は「世界一の産出国」の座を中国に譲り渡しましたが、依然として同国の主要な輸出品の1つです。そんな同国で2008年1月に電力危機が発生した際、金やプラチナ、ロジウムといったレアメタル相場は史上最高の価格水準まで押し上げられることになりました。これは特殊なケースではありますが、産出量が少ないレアメタルは、産出国の供給政策、あるいは採鉱や精錬設備のトラブルで、たちまち世界市場に大打撃を与える可能性をはらんでいることが分かります。

 レアメタルについては、中国(タングステン、レアアース、インジウムなど)、南アフリカ(プラチナ、クロム、マンガンなど)、ロシア(プラチナ、バナジウム、ニッケルなど)、チリ(銅、モリブデン)といったように、生産が大きく偏在しています。このうち、主に中国に頼ってきたタングステン、レアアース、インジウムなどは供給を受ける側の最大のリスクとなっています。これは、中国の資源政策の転換によるもので、中国にとって戦略物質と認識されれば全面的な輸出禁止となる可能性があるためです。6月には、中国が国内需要を満たすためにレアメタルの輸出規制を強化しているとして、米国がWTO(世界貿易機関)に提訴するまでに至っています。同じように偏在しているレアメタルでも資源国の供給政策によって大きな影響を受ける可能性があるということが予想されます。

 レアメタル価格の急激な高騰は、必ずしも需給バランスからだけで起こっているわけではなく、昨今の金融不安で生まれた流動的資金の流れ先の1つであることも影響しています。とはいえ、投機対象から外れても、昔のような低価格でいつでも手に入るという認識は改める必要があります。

 日本でのレアメタルの国家備蓄制度は1983年度から進められており、製鋼の添加剤として使用されるバナジウムや、硬度の高い合金に用いられるタングステンなど4種類について、国内消費量の約20日分を備蓄しています。これを今年度中に2倍に積み上げるとともに、薄型テレビや太陽光発電パネルなどの原材料となるインジウムと、省エネ照明器具に使われる発光ダイオード(LED)などに不可欠なガリウムについても新たに備蓄を開始しています。また、備蓄の対象にはなっていませんが、電気自動車用の大型充電池などに使われるリチウムについて三井物産がカナダの資源会社と独占契約を結ぶなど、民間でもレアメタル確保が着々と進められています。

都市鉱山とは?

 このような状況で、「都市鉱山」という言葉も取り上げられるようになってきました。この言葉は、1987年に東北大学選鉱製錬研究所の南條道夫教授らが提唱したものです。その中には、「レアメタルの重要性はハイテク産業の糧ともいわれ、その供給ストップがそのまま本邦の産業の停滞を意味するまでになった」と記述されていますが、この言葉が現在でもまったくそのままの意味で用いることができます。レアメタルは、日本の産業を支えるハイテク機器の鍵となる部品に多く用いられており、例えば携帯電話には、アンテナにガリウム、液晶画面にはインジウム、基盤にはパラジウムや金、電池にはコバルトといった具合に、レアメタルが多く含まれています。つまり、製造された広い意味での社会資本に多くの有用な金属資源が使用されており、今でも残っているわけです。独立行政法人物質・材料研究機構が2008年1月11日に発表した数字でも、例えば、日本の都市鉱山に存在する金の総量は6800トンで、全世界の現有埋蔵量の約16%に相当しています。同様にレアメタルについても、日本の都市鉱山には全世界埋蔵量の一割を超えるものが多数存在しており、そこから資源を再生できないかと考えられているのです。

 しかしここで、その再生方法が問われています。ベースメタルは電力や構造物などの都市インフラを構築するものとして利用されていますので、資源の再生も比較的楽ですが、レアメタル類は、携帯や小型の電子デバイスといった個人消費財の中の部品として広く薄く社会に拡散しています。この拡散した元素を収集し、かつ経済性を持って循環することは容易ではありません。

 都市鉱山の開発手法としては「人工鉱床構想」などが提案されており、使用済みの電子機器を鉱物資源として捉え、計画的に取り扱っていこうという姿勢がみられます。これまでなら、レアメタル含有製品は廃棄物されるか、あるいは使用後に環境規制が厳しくない近接国に流出しており、回収システムがうまく機能すれば、この問題を解決できると期待されています。鉱床というと古めかしく感じるかもしれませんが、現代の鉱床はリサイクルという形で操業されていくのかもしれません。

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