コラム
» 2009年08月19日 13時38分 UPDATE

職場活性化術講座:「葉っぱビジネス」の成功を支える絶妙な仕組みとは

新しいビジネスの鉱脈を探し当てることは容易ではない。しかし探し当てた鉱脈から着実に利益を生み出すことはもっと大変だ。最近注目された徳島県の「いろどり」という会社の事例は、その困難さをいかに克服するかを教えてくれる。

[徳岡晃一郎,ITmedia]

世界を変える起業家に

 前回は「思い」を持てなくなってきた職場の実情とそこに端を発する「考えない職場現象」について考えてみた。目の前の課題に追いまくられて考えるどころではなく、毎日が応急手当、火事場のばか力の連続だ。そういうことに得意な人材だけが残っていくとしたら恐ろしい。成長戦略を描き大胆に踏み出すよりも、組織ぐるみで「モグラたたき化」してしまう。しかし、実情はもっと深刻で、そんなモグラたたきでも率先してやってくれればまだいいのだが、モグラたたきにも疲れきってしまい、モグラを見つけてもらい、「そこをたたけっ!」と言われてはじめて動くような冷めた受動的な集団にさえなっている組織も出ている。要は、熱くないわけだ。

 一方で日本には熱い職場も残っている。そんな職場の1つが「株式会社いろどり」だ。今回はそんな会社を紹介しよう。

 いろどりは大変ユニークな会社だ。徳島県の勝浦郡上勝町という山村にあり、そこで平均年齢70歳以上のおばあちゃんたちがPCを駆使し、市況を読みながら自分の商品である「葉っぱ」を集めて販売している。会社としての売上高は2.6億円で、なかには年収1000万を稼ぐおばあちゃん社員もいる!

 いろどりの商品は、「ツマモノ」と呼ばれるレストランや料亭で出される料理に添えて出てくる南天やもみじ、うらじろなどの「葉っぱ」であり、これを山間で収穫し出荷している。いろどり以前には、ツマモノはシェフや料理長が自分の感覚で個別に集める類の完全な脇役だった。そうした慣行を破って日本ではじめてツマモノの流通ビジネスを創造した。

 このビジネス化の立役者が、上勝農協に営農指導員として20歳のときに派遣された横石知二氏だ。それから30年弱、横石氏は多くの紆余曲折を経て、現在のいろどりを育て、2007年にはニューズウィーク(日本版)の「世界を変える起業家100人」に選ばれるまでになった。

おばあちゃんたちの目の色を変える

 いろどり設立は、上勝町の主要産品であるみかんが冷害により壊滅したための代替作物の検討から始まった。また、当時の上勝町では、大した仕事もなく多くの人々が無駄なおしゃべりに明け暮れ、人の悪口などで時間を費やし、積極的な成長戦略を描くこともなかった。皆、補助金頼みでやる気がなく、どんどんと過疎化が進んでいた。そんな状況に業を煮やしていた若き横石氏は、冷害をチャンスととらえて、上勝町を復活させる産業おこしを決意したのだった。

 高地を生かした野菜栽培やシイタケ栽培などの生産・販売からスタート。それらも順調に推移するものの、どうしても季節性があることと、上勝町の人口構成を考えると高齢者でも楽に作業ができるものでないと長続きはしないと見て取った彼は悩んだ。何かもっとおばあちゃんたちが楽に働けて、かつ年間を通じて行えるビジネスはないものか。

 こうした悩みを抱えながら悶々としていた横石氏はある日、すし屋でひらめく。隣の女性たちが、ツマモノとして添えられていたもみじの葉っぱを「わぁきれい。持って帰ろう」とハンカチに包むのを目撃したのだった。ここで、「そうだ、葉っぱを売ろう!」と思い立ったのである。

 その後、横石氏は月給15万円のすべてを注ぎ込んで、1回2〜3万円の料亭に通いつめ、ツマモノの意味、価値、使われ方などを徹底して学習する。いつしか暗黙知だけでなく体重も倍に増えていた。おばあちゃんたちも当初は半信半疑であったが、彼女たちを料亭に連れて行き、現場を見せた。するとおばあちゃんたちの目の色も変わってきた。

「ラブレター」で共創を起こす

 こうして商品と生産側を押さえるとともに、横石氏は全国の農協やレストランを回っていろどりへの発注を促すよう、顧客と流通の開拓に励んだ。また顧客のニーズを理解した彼は、おばあちゃんたち生産者側が需要に応じて的確な品種を適量、迅速に出荷する体制を導入。農家に専用ソフトを組み込んだPCを用意し、おばあちゃんたちが競争心を持ち、自らの才覚でもうけられる仕組みを用意した。

 このように横石氏は生産側と販売側の仕組みの整備だけではなく、おばあちゃんたちが生き生き働ける仕組み作り、補助金に頼らず自立することの楽しさを気付くこと、そして上勝を再び活気のある町にすることという、単なる利益以上のより大きな理念を持って突き進んでいった。こうした彼の「公共善」につながる志の高いビジョンが人々を感動させ、おばあちゃん、農協、料亭、市場などを多数巻き込んで、知を吸収し、共創が行われていったと言えよう。

 また横石氏は人使いもうまい。おばあちゃんたちをやる気にさせるためにあらゆる手段を使って、盛り上げを図っている。彼の言葉で言えば、「気を送る」ということだ。市場要望に対してどれだけミートできるかが信用を獲得し、売り上げにもつながるということを市場に直結したビジネスをしていなかったおばあちゃんたちに分かってもらうために、「もう定時だけど、あと15分、あと何枚集めてください」「クリスマスシーズンに向けてのヤマ場だから頑張っていこう」などと、おばあちゃんたちからは「ラブレター」と呼ばれるファックスを流し、たきつけていった。こうした綿密なコミュニケーションが村全体に生気を与え、活性化すると語っている。

 このようにいろどりはまったくのゼロから、手探りのなかで進んで、年商2億円の事業に育ったわけだ。最初から必要な要素が見えているわけでなし、経験もない中で、皆で戦った結果の成功だ。リーダーの横石氏は自分のビジョンをモチベーションとして、現場から徹底的に学び、周囲を勇気づけ、共感させて、道を切り開いていった。そして昼から酒を飲んでぶらぶらしていた思いのない職場、考えない職場が大きく変わった。

 思いを込めた仕事とは何かをあらためて感じさせてくれる好例だ。そしてこうした例は今でも日本のいろいろな職場で存在しているのである。ポテンシャルのある人材を発見し、勇気づけていくことで熱い職場作りを支援していく懐の豊かなマネジャーを育てていきたいものだ。

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プロフィール

とくおか・こういちろう 日産自動車にて人事部門各部署を歴任。欧州日産出向。オックスフォード大学留学。1999年より、コミュニケーションコンサルティングで世界最大手の米フライシュマン・ヒラードの日本法人であるフライシュマン・ヒラード・ジャパンに勤務。コミュニケーション、人事コンサルティング、職場活性化などに従事。多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所教授。著書に「人事異動」(新潮社)、「チームコーチングの技術」(ダイヤモンド社)、「シャドーワーク」(一條和生との共著、東洋経済新報社)など。


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