目の前の仕事に追われ、疲弊しきってしまう前にマネジャーとしてやるべきことは何だろう。
先週、某大手企業のミドルマネジャー層の研修の講師として3日間、『思いのマネジメント』というテーマで研修を行ってきた。
その企業に限らずだが、筆者の研修に参加するミドル層と話し込むたびに出てくる課題はといえば、おおよそ次のようなものだ。
多くの企業で、こうした状況が続いており、職場には疲弊感が満ちている。職場の若手だけではなく、ミドル層自身も疲弊気味だ。そこで起きてくることは何だろうか。
創造的なこと、新しいこと、本質的なこと、根本的な解決、組織作り、部下育成などはどんどん後回しになる。重要なことが先送りされ、目の前の火消しに追いまくられてしまう。職場での会話と言えば、数字は達成したのか。なぜできないのか。いつまでにできるのか。どうしようとしているのか。どこと調整したのか。リスクはないのか。もう何%か積み増しできないのか・・・。そんなことばかりになる。『目の前症候群』だ。
やりたくても物理的な制約でこのような目の前症候群から脱却できないミドルもいるだろう。しかし、一方ではそうした「目の前課題」の処理に快感を覚え、そこに埋没していく管理職もいる。
かつて、ソクラテスは言った。
「われわれにとって、最もさまつなことは、われわれが最も頻繁に考え語っているものであり、最も重要なことは、最も考え語られることの少ないものである」
本当に重要なことに対して目を瞑ってしまう、『考えない職場』になっていくわけだ。しかし、では日本全国このような職場ばかりかというと、そういうわけでもない。『考えない職場』と『考えている職場』。その差は一体何だろうか。
その差を左右している要因。そこにはわれわれにとって非常に重要な『思い』の存在がある。
前回まで左脳の重要性を説いてきた。地頭のよさや、きちんと論理分析的に物事を仕分け、原因を分析し、抜け漏れなく的確に判断していくことの重要さは、複雑化する今日、ますますその重要性を増している。
しかし、一方では、そのような頭の良さや論理分析的な鋭さが、あまりにも大量に流れてくる目の前の課題群の処理のために、浪費されてしまっているのではないだろうか?
そのような課題群をただひたすら処理し、てんてこ舞いになるのではなく、どう立ち向かのうか。そのために大切なのが実は右脳側、すなわち『思い』なのである。思いとは自分の主観であり、仕事や生活のテーマに対しての主張や価値観である。
明確な思いをもって仕事や自分の仕事人生、組織作りに向かっているかどうかで、目の前の課題が違って見えてくるものだ。自分よりに引き寄せてリフレーミングできる。
実はわれわれはこのように仕事や人生などさまざまなレベルで思いを持っているはずだ。忘れているだけなのではなのかもしれない。このような思いを持つことで、われわれは自分の今、自分の今の環境、自分の今の仕事などについての文脈設定ができるわけだ。何のためにこの仕事をするのか、今の仕事や環境を変えられないのならば、どう解釈すればよいのか。あるいは、自分の思いに近づけるために、どう変えていけばよいのか。そういった視点を持てるようになるわけだ。
逆に、思いがなければ、自分なりの文脈が設定できずに、ただ仕事に流されていくだけ、ということになってしまう。ある意味では、左脳の育成と活用に、新入社員以来120%の時間を取られ続けてきたわれわれサラリーマンは、そうした左脳中心の処理型の時間の使い方に人生を巻きとられてしまったわけだ。もう一度、今の仕事への思い、会社への思い、仕事や人生への思い、部下への思いを整理してみよう。世界が違って見えるようになるはずだ。
とくおか・こういちろう 日産自動車にて人事部門各部署を歴任。欧州日産出向。オックスフォード大学留学。1999年より、コミュニケーションコンサルティングで世界最大手の米フライシュマン・ヒラードの日本法人であるフライシュマン・ヒラード・ジャパンに勤務。コミュニケーション、人事コンサルティング、職場活性化などに従事。多摩大学知識リーダーシップ綜合研究所教授。著書に「人事異動」(新潮社)、「チームコーチングの技術」(ダイヤモンド社)、「シャドーワーク」(一條和生との共著、東洋経済新報社)など。
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