「Googleによるデータ保有が人々の個性を奪う」――セキュリティ研究者シュナイアー氏

シュミットCEOのプライバシー問題に関する「他人に知られたくないようなことは、そもそもすべきではない」という発言を受け、著名なセキュリティ研究者が反論した。

» 2009年12月15日 11時42分 公開
[Clint Boulton,eWEEK]
eWEEK

 米CNBCのニュースキャスター、マリア・バルティローモ氏から「人々はGoogleを最も信頼できる友人と見なすべきか」と質問されたGoogleのエリック・シュミットCEOは、「どっちみち非難される」という落とし穴にはまったようだった。これは、コンピュータユーザーに関するデータを収集するすべての企業が遅かれ早かれ陥る落とし穴だ。

 12月3日に放映されたCNBCの番組「Inside the Mind of Google」(Googleの本音)でシュミット氏は次のように答えた。

 分別が大切なのではないか。他人に知られたくないようなことは、そもそもすべきではない。そのようなプライバシーが本当に必要だとしても、Googleを含む検索エンジンは、こういった情報を一定期間保持しているのが現実だ。米国ではわれわれすべてが米愛国者法(パトリオット法)の対象となり、この情報すべてが当局に提出されることもあり得る。

 プライバシーやセキュリティの専門家は当然、シュミット氏の発言を聞いて大いに興奮したことだろう。同氏とGoogleのごう慢な考え方が明らかになったからだ――人々は他人に知られて恥ずかしいと思うようなことや、犯罪などの不正行為に関連付けられる可能性があることは一切すべきではないというのだ。つまり、どんな行為でも“露出”されるので、一部の人々は検索エンジンを使うべきではないということなのだろうか。

 著名なセキュリティ研究者、ブルース・シュナイアー氏は次のように反論している。

 プライバシーとは権力者による情報の悪用から人々を守るためのものだ。たとえ、調査されたときに、われわれが何も悪いことをしていない場合でもだ。人々は愛し合ったり、トイレに行ったりするが、これは何も悪いことをしているわけではない。われわれが熟考したり会話をしたりするときにプライベートな場所を探すのは、意図的に何かを隠そうとしているのではない。われわれは内緒の日記を付け、シャワーを浴びながら1人で歌を歌い、片思いの相手に手紙を書いては破り捨てる。プライバシーは人間の基本的要求なのだ。

 われわれのあらゆる行為が観察されれば、訂正、評価、批判、さらには自身の独自性の盗用といった脅威に絶えずさらされることになる。プライベートで罪のない行為に対して取締当局の監視の目が向けられることにより、人々は注意深い視線に縛られる子供になってしまい、自分の残した形跡が今にも、あるいはいつか将来、何らかの事件と関連付けられるのではないかと絶えずおびえるようになる。人々は個性を失うだろう。人々のあらゆる行為が観察・記録可能になるからだ。

 シュナイアー氏の指摘によると、皮肉なことに、人々の個性が失われるのは、Googleが行うことはすべて、ユーザー全体のWeb閲覧傾向を分析し、ユーザーの関心に基づいて広告を配信するのが目的であるからだ。Googleがわれわれのデータを保有するのを認めれば、そのデータが自分たちに不利な目的で利用されるのではないかという不安のせいで、われわれは社会的に許容された通常の行動から逸脱することはできないと感じるようになるかもしれない。

 バルティローモ氏はさらに「Googleは世界で最も強力な企業だと考えているのか」とシュミット氏に質問した。「全然、そうは思っていない」という答えはシュミット氏の本音だったようだ。「だがGoogleは人々に関する情報をたくさん持っているが」とバルティローモ氏は反論した。

 「しかしわれわれはそれを利用しないし、悪用もしない」とシュミット氏は答えた。「万一悪用したりすれば、誰もが競合企業の方に逃げてしまうので、われわれはすぐに力を失うだろう。つまり、あなたの質問に込められた批判に対する答えの一部は、われわれがエンドユーザーの信頼を裏切るようなことがあれば、ユーザーに見放され、重要な存在ではなくなるということだ」

 これは、「競争はたった1クリックの差」というGoogleのキャンペーンとも一致する考えだ。「人々はGoogleにデータを預けても大丈夫だ。われわれが人々の信頼を裏切ってデータを悪用したりすることはないからだ」というのがGoogleの立場だ。

 Googleはユーザーデータを悪用しないかもしれないが、ジョージ・オーウェル的な全体社会のように市民を監視することまで認めた愛国者法の下で、当局がそういったことをしないと誰が言い切れるだろうか。それをプライバシー擁護論者が心配しているのであり、Googleが連邦政府の調査対象になっている理由の1つもそこにある。

 ではどんな解決策があるのだろうか。データの匿名化は無意味だ。だれもそんなことでは満足しないからだ。それよりも、Googleはリアルタイム分析エンジンを開発すべきではないだろうか。これは、システムにデータが入る時点でユーザーに関するデータを選び出し、検索機能の改善にそれを利用し(リアルタイムのパーソナライズド検索のようなものだ)、その後でデジタル墓場に永久にそのデータを廃棄するというものだ。

 Googleは先週、検索結果をリアルタイムでインデックス化できることを示した。つまり、有用なユーザーデータをかき集め、コンテキスト広告のターゲット設定に役立つリアルタイム分析を実行するアルゴリズムをGoogleが作成するのは、現実的に可能だということだ。

 そうすればGoogleは、ユーザーデータを保存してそれを匿名化手法で覆い隠さなくても済む。Googleは技術的チャレンジを解決するのが好きだ。つまり、同社がプライバシー問題を解決するために技術に目を向けるというのは、理にかなったことなのだ。

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