世界で勝つ 強い日本企業のつくり方

宋文洲が伝える日本復活へのメッセージ世界で勝つ 強い日本企業のつくり方(4/4 ページ)

» 2010年02月17日 07時00分 公開
[構成:國谷武史,ITmedia]
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自信はすぐに取り戻せる

宋文洲氏

 バブルが崩壊してから日本人は自信を取り戻せないままだと言われるけど、人間の自信は体験によって裏付けられなければ持てないものだ。例えば何の苦労もせずに親から100億円をもらったとして、その人は自信を持てるだろうか。周囲はお金を持っていることでVIPのように接してくるだろうけど、普通なら自分の実力でそのようになれたとは到底思えないだろう。

 世界第2位だった日本のGDPがもうすぐ中国に抜かれると騒がれているけど、13億人の中国が1億人の日本を抜くのは当然だ。そもそも日本だって1985年のプラザ合意と円高でGDPが何倍にもなったのを思い出せば、このような数字と自信を持つこととはまったく関係がないことが分かるだろう。GDPで中国に抜かれると騒ぎ立てるのは、自分勝手な話だし、そもそも数字の大小だけで自分の方が上だとか、相手が下だとかというのは、自信を持てないことの表れだ。

 「日本にはものづくりのDNAがある」と主張する人もいるけど、なぜそのDNAを培ってきたのかを考え直してほしい。日本だって100年少し前までは品質のいい輸入品を「洋品」といって尊敬していた。それから、多くの自動車メーカーが米国で経験したように日本人は品質を高めるために大変な努力をしてきた。

 しかし、なぜか日本人はそこまでの道のりを忘れて、成功した企業の「神話」を作ってしまう。「日本人は自動車作りの天才だ」と思い込むようになった。努力と経験を積み重ねてきた結果なのだから、それを続ければいいのだけど、勘違いしてしまって頭が硬くなって、外部の動きについて行けなくなる。日本はとても優秀だけど、ほかの国や地域だって日本と同じように優秀だし、世界の中に能力の劣る人種なんていない。日本人は、一人ひとりが「負けることがあっても自分はやっていける」という何かしら経験を持っている。だから、国や数字を拠りどころにしなくても、個人の自信をすぐに取り戻せるはずだ。

 日本企業がグローバルで活躍するには、まず国内で多様性を認めるようしていくことが先だと思う。海外の事情がどうだというのは問題ではないし、「海外に出てどう勝てるのか」という発想自体も間違いだ。以前にある会社の幹部研修会で講演する機会があったけど、数百人の幹部の前で「なぜ女性が一人もいないのですか」と思わず聞いてしまったことがあったよ。グローバル化が難しいという問題のほとんどは国内に問題があるし、そんな会社が「海外で勝ちたい」なんて言うことはやめてほしいね。

 まずは「変わったアイデアを持っている人を大事にしていますか」「年功序列になっていませんか」「年齢だけで評価していませんか」「がんばっている女性が管理職になっていますか」とぜひ自問自答してほしい。日本の中で面白い会社にしていけば、海外でも通用する会社になるはずだ。海外との競争は、映画のような宇宙人と地球人の戦いじゃないのだから、構える必要なんてない。一人の人間としてみれば、みんな一緒だ。自分とは違うタイプの人間に出会っても、「うちの会社にもこんな人はいるな」と思うぐらいでいいんだ。

 恐らく5年先、10年先の日本は良い意味ですごく変化しているだろう。失われた20年と言われ続けているけど、なぜ変われなかったといえば、生活が苦しくないからだ。しかし、これからの数年間は本当に苦しくなるかもしれない。国債の負担がさらに重くなるし、デフレも止まらない。真剣に生活のことを考えなければいけなくなる。でも、その時こそ理屈じゃなくて本当に変化できる。

 人間は追い込まれないと変化できないものだ。日本の産業構造を大きく変えないと雇用は増えない。古い体質のままの企業が幾つも倒産して一時的に失業率が高まるかもしれないが、それは瞬間的な出来事でしかない。国家100年の計を作るように、変化に向かって行ける良いタイミングだ。

 例えば、先日も福岡から羽田までJAL(日本航空)を利用したが、乗務員一人ひとりが以前よりもとても気を使ってくれて、急に機内サービスが良くなったと感じた。移動の間ずっとなぜだろうと考えていたけど、東京に戻ってニュースを見たら、ちょうどその日が会社更生法を申請した日(1月19日)だった。企業によってはJALのようなケースが必要だろう。外国から見ればJALに対して日本政府がとった方法は甘いけど、わたしは良いことだと思うよ。

 今まで多くの日本人が意識的に現実から目を背けて、他人任せにしていたと思う。外の変化は自分には関係ないことだと逃げていた。これからは、ぜひ変化に対して前向きになってほしい。

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