競争激化、クラウドサービスも付加価値の時代へ――日本パテントデータサービス導入事例(1/2 ページ)

特許をはじめとする知的財産に関する情報は、日本国内だけでも年間90万件前後が特許庁から公報によって発行されている。商用特許データベースは、これら膨大な特許情報検索のサービスを提供する日本パテントデータサービスは、検索結果の付加価値として自動翻訳機能を取り入れ、確実にシェアを伸ばしている。

» 2010年05月20日 13時00分 公開
[中尾真二,ITmedia]

 日本パテントデータサービス(JPDS)は、商用特許データベース業界の中でも風雲児とでもいえる存在だ。今から10年以上前の1998年に、検索サービスの月額固定制度をASP方式で始めた企業だ。それまで特許情報を検索するサービスは、基本契約料に加えて時間単位の従量課金や回線使用料なども必要な料金体系が一般的だった。大企業になると年間の特許情報の検索コストが数億円にも達するという業界において、いち早くASP型の月額固定料金によるサービスを始めた。

 そのJPDSが提供する「JP-NET」という商用特許データベースの検索サービスに、追加料金なしのバージョンアップの形で、海外(英文)の特許情報の要約部分を翻訳して表示する機能が追加された。このサービスを始めた業界の背景事情や同社の戦略について、同社代表取締役 仲田正利氏と、その子会社でありシステム開発を担当するベスト・システム・リサーチ 代表取締役社長 田代浩一氏に話を聞いた。

特許情報サービスという特殊な市場

仲田氏 日本パテントデータサービス 代表取締役 仲田正利氏

 そもそも特許情報の検索は、弁理士など専門の資格とスキルを持ったプロフェッショナルが、特許申請などと同様に請け負うものであり、情報の検索だけでも時間あたり、1件あたりで高額な費用が必要なものだ。データベースサービスを利用しても従量課金には変わりはなく、不用意に使うと100万円単位の費用がすぐに課金されてしまう。

 仲田氏によれば、ASPによる定額サービスを始めた当初は同業他社から「そんなサービスは3年もたないだろう」とよく言われたという。しかし、実際にはすでに10年以上もこのサービスを続けており、月額固定サービスは今や業界の標準にさえなっており、同社はまさにプライスリーダー的な存在でもある。

 このような市場背景の中、JP-NETが月額利用料5,000円で海外の特許情報の英日自動翻訳サービスの提供を開始した。既存ユーザーも追加料金なしで翻訳サービスを利用できる。このようなサービスを始めた狙いはどのようなものなのだろうか。

企業のグローバル展開に必須の海外特許情報へのアクセス

 現在、JP-NETのような商用特許データベースサービスのASP化、クラウドサービス化は競合他社にも浸透し、月額固定サービスも業界のスタンダードになりつつある。市場は活況を呈しながらも、価格だけでは差別化ポイントとして十分でなくなってきている。

 また、企業のグローバル化によって、海外特許情報へのアクセスニーズも高まっている。グローバル化は、すでに大企業だけの問題ではない。国内市場が低迷する中、中小企業といえども海外市場への展開は必須の戦略となっている。例えば、自社製品を海外展開する場合、そこに使われている日本国内の特許は海外でどのような扱いになるのか。あるいは知財保護という側面から、当事国での特許出願なども重要となる。海外の特許情報も、その国の当局に問い合わせれば検索や情報へのアクセスは可能であるが、当然日本語ではない。

 2009年の秋、JP-NETではこのニーズに応えてサービスの差別化を図るため、海外の特許情報の検索サービスと英日の自動翻訳機能を提供することを決定したそうだ。検索可能な海外特許は、米国、欧州、国際公開、中国、韓国、台湾などだ。これらの国の英文の特許情報に検索をかけ、要約および請求項の日本語翻訳画面が表示されるというものだ。

 しかし、特許情報には独自の難しさもある。まず、それぞれの技術分野や業界特有の用語の問題だ。分かりやすい例でいえば、「Architecture」は建築業界なら「構造物」だが、IT業界なら「アーキテクチャ」もしくは「構造」となる。「Design」もアパレル関係なら「デザイン」でよいかもしれないが、エンジニアリング関係では「設計」のほうがしっくりくることもある。

 さらに、特許では斬新な発想やまったく新しい技術に関する内容を含むものである。特許に関連する、新しい造語や用語(これを未知語という)の扱いも難しい。

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