家族と過ごす時間を得る働き方――インテルの場合ワークスタイル変革とセキュリティの両立

企業として適切な管理体制を維持しつつ、社員が柔軟に働ける環境をどのように構築すべきか。モバイルワークスタイルを実践するインテルに聞く。

» 2010年07月30日 10時38分 公開
[國谷武史,ITmedia]

 企業の活力を高める手段として、社員が柔軟に働ける環境が注目されている。例えば、社外でも社内にいるのと同じように仕事をする「モバイルワークスタイル」を導入すれば、社員は日中の移動時間などに集中的に業務を処理し、早く帰宅できるだろう。プライベートと仕事の両立を図る「ワークライフバランス」が可能になり、社員の活力が高まる。その結果として組織全体が活性化されるという考え方だ。

 IDC Japanが今年3月に発表した「国内ビジネスモビリティ利用実態調査結果」によると、ビジネスモビリティ(「携帯情報機器を活用してオフィスの自席と同様、もしくは近い環境で仕事をすること」と定義)にノートPCを活用することで「生産性が50%以上向上した」という回答が6割を超えた。しかし、ノートPCを社外に持ち出しているのは全体の約2割だった。

 では、モバイルワークスタイルを実践する企業では、どのようにセキュリティを維持しつつ、社員のワークライフバランスを確保しているのだろうか。インテル マーケティング本部プラットフォーム・マーケティング・エンジニアの坂本尊志氏に聞いた。

8割以上がノートPC

インテル マーケティング本部プラットフォーム・マーケティング・エンジニア 坂本尊志氏

 Intelは、今年4月に企業向けクライアントPCの管理技術「vPro」の最新バージョンを発表した。PCの盗難・紛失対策やデータの暗号化処理を高速化する機能を追加し、モバイル環境でのセキュリティを向上させた。同社はこうした技術や製品を開発するだけでなく、自らもユーザーとしてPC管理技術を活用し、モバイルワークスタイル環境の整備を進めている。

 Intelは63カ国150拠点でビジネスを展開しているため、社員は業務時間がそれぞれ異なる各地の拠点と連携しながら仕事をする機会が多い。坂本氏は、「社員一人ひとりの生産性を最大化させることが重要なテーマになっている。オフィスだけにとどまらず、移動などの時間も有効活用しながら仕事を効率的にすることで、ワークライフバランスの維持を図るようにしている」と話す。

 Intelには2009年末時点で約8万人の社員が在籍し、うちIT部門は5600人強だ。9万台近いクライアントPCを保有しており、ノートPCが81%を占める。クライアントPCの管理はIT部門が担当している。

 ノートPCの本格導入が始まったのは2005年ごろからで、まずは営業部門で導入が進み、ノートPCの社外持ち出しを許可したという。同社の先端技術を顧客に紹介するという業務とワークライフバランスの確保という両面から、ノートPCが最も必要とされる部門であったためだ。

 同社がvPro技術を発表した2006年秋からは、vPro搭載PCの導入を進めた。2009年末時点でのvPro搭載PCの規模は4万8500台。日本法人では既にほぼ100%がノートPCとなっており、vPro搭載端末の割合も高い。「一部のバックオフィス部門ではデスクトップPCを利用しているが、今後はノートPCに切り替わっていくだろう」と坂本氏は話す。

 2009年からは、社内あてのメールを社外でもスマートフォンから利用できるようにした。多くの社員は、メールチェックはスマートフォンで行い、それ以外の業務はノートPCで行っているという。社内システムにはVPN経由でアクセスしている。またビデオ会議やIP電話を活用して社外にいても随時、必要な相手とコミュニケーションをとれるようにしている。

 vPro搭載PCに対しては、サポート対応や電源制御を含めた日常的な管理を25カ国62拠点にあるIT部門がリモートから行っている。例えばPCから社内システムへのアクセスにはVPNを利用しており、VPN接続でのログインパスワードを90日ごとに変更するルールとしているが、IT部門で社員が順守しているかを確認しているという。

 こうした体制を整備しておくことで、仮にトラブルが発生しても、IT担当者はリモートから端末の状態を把握して、その場で対応をとることができる場合が多い。リモート管理の仕組みがなければ、社員の席に出向くか、社外でのトラブルには電話で煩雑なやり取りをしなくてはならず、負担は大きなものとなってしまう。

 同社がモバイルワークスタイルの導入とリモート管理体制を整備したことによるコスト削減の効果は、年間50万ドルになるという。またビデオ会議や社内用ソーシャルメディアの利用を推進したことで、2009年は出張などのコストを約1400万ドル削減した。

 「小さな子供がいる社員は、夕方に帰宅して一緒に食事や入浴をし、子供が寝てから1〜2時間ほど仕事をしている。わたしも仕事帰りに友人と食事をする時間が早くなった」(坂本氏)


 IDC Japanの調査結果に見られるように、国内ではノートPCを活用してモバイルワークスタイルを積極的に導入している企業はまだまだ少ない状況だ。セキュリティ上のリスクを理由にPCの社外利用を認めていない企業も多い。

 だが坂本氏は、「PCを持ち出すこと自体がリスクになるというよりも、持ち出すことに対して管理体制が不十分なままであることがリスクではないだろうか」と話す。

 モバイルワークスタイルを安全に実施していくための手段は普及しつつある。こうした手段を活用して組織の生産性や競争力を向上させるために、柔軟なワークスタイルの導入を検討する企業が増えることが期待される。

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