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» 2010年08月18日 08時00分 UPDATE

AppStoreが足かせに?:iOSアプリは企業での組織的導入に耐え得るか

iPhone/iPadをビジネスで活用する可能性に注目が集まっている。個人の生産性向上には良い選択肢だろうが、組織的な利用となると、アプリの調達などにハードルがありそうだ。

[石森将文,ITmedia]

 2010年の7月21日、ファイルメーカーは同社の主力製品「FileMaker Pro」で作成したデータベースに直接アクセスし、また編集もできるiOSデバイス用アプリ「FileMaker Go for iPhone/iPad」を発表した(以下、FileMaker Goと一括して記述)。ただし本稿は、FileMaker Goの機能紹介を目的としたものではない。アプリの詳細を知りたい読者は、発表時の記事ファイルメーカーのサイトを参照してほしい。

 FileMaker Goを「企業内における在庫管理やオーダリング、また教育分野などでも活用でき、ビジネスの生産性向上に寄与できる」とするファイルメーカーだが、それにはいくつかのハードルがあるようにも思える。ここで言うハードルとは、FileMaker Goの機能に由来するものではなく、アプリの提供形態によるものだ。

 iOSデバイスにアプリをインストールするには、いくつかの手順が必要だ。まず、iTunesをインストール済みのPCにiOSデバイスを接続し、アクティベートしなければならない。その上で、iTunes経由、またはiOSデバイスから直接AppStoreにアクセスしアプリケーションを購入するには、Apple IDにクレジットカード情報を登録する必要がある。

 とはいえ“企業内個人”が、あくまでも個人の責任の範囲で、iOSデバイスを使うのなら大きな問題にはならないだろう(勤務先のセキュリティーポリシーは意識する必要があるが)。だがファイルメーカーが言うように、在庫管理などの用途で、組織的に大量のiOSデバイスを使うとなると、このインストールフローは、アプリの調達や運用に困難をきたす可能性がある。

 例えばある企業が、ハンディターミナル代わりにiPadを導入しようとし、そのために100台のデバイスと、100ライセンス分のFileMaker Goを調達するとしよう。システム上、1つのApple IDで複数のiOSデバイスを管理することは可能だが、ライセンスに照らすと、それは“個人が非商用で用いる場合”に限られる(例えば、iPhoneとiPadを両方持っている個人など)。そうでないと、FileMaker Goを1ライセンス買っただけで100台のiPadにインストールできてしまうので、ライセンスで規制するのは、当然と言えば当然だ。

fm.jpg ファイルメーカーはそのサポートサイトを通じ、FileMaker Goを大量に導入する際のTipsを紹介している(画像クリックで拡大)

 企業が使う場合は商用なので、1台のPC(iTunes)上で100個のApple IDを切り替えながら100台のiPadを運用するか、それともPCも100台用意し、iPadと“1:1”で運用するかの選択になる。あるいは、PCは30台程度とし、2〜3台のiPadで1台のPCを共有する形でもいいかもしれない。だが、どの方法を選ぶにせよ、運用に相当な手間がかかるのは、想像に難くない。

 100ライセンス分のFileMaker Goを調達するのも大変だ。Apple IDに登録したクレジットカードが、法人名義のものであればまだ良いが、暗証番号をiPadの利用者に教えるわけにはいかないため、法人カードの権限を持つ部門(それが必ずしも情報システム部門であるとは限らない)が全て購入(インストール)しなければならないだろう。当然、インストール後にiPadをユーザー部門に引き渡す際には、Apple IDからクレジットカード情報を削除する必要もある。

 別の方法としては、Apple IDには利用者個人のクレジットカードを登録させ、ユーザー自身がFileMaker Goを購入し、後で経費精算するという選択肢もある。だがそうすると“IDとiPadと購入者”が決済情報を含めて結びついてしまい。iPadを在庫管理の現場で取り替えながら使うわけにはいかなくなる。この場合もやはり、クレジットカード情報を削除しなければならない。また、クレジットカードを所有していない現場スタッフがいると、また面倒なことになる。

 ここまで述べてきた問題を回避するため、ファイルメーカーはそのサポートサイト上でiTunesの「このAppを贈る」機能の利用を推奨している。しかしこの方法でも、「買掛で処理したい」というような企業の要望は満たせない。

SIerのうま味も少ない?

 またFileMaker Goの商流が、AppStoreからクレジットカードで購入する方法に限られることは、FileMakerを扱うSIerにとっても足かせとなる。一般に、FileMakerの企業導入に当たっては、同社の認定インテグレーターであるFileMaker Business Alliance(FBA)企業が尽力するところが大きい。だがFileMaker GoはユーザーがAppleから直接購入するほかなく、FBAが一枚かむ余地がない。

 結果、FBAの協力が得られず(FBAも自社で扱えない以上、ユーザーをサポートできず)、FileMaker Goを組み込んだFileMakerソリューションの導入が、なかなか進まない可能性もある。そもそも導入企業側にだって「多数のライセンスを買うのだから割引してほしい」とか「AppStoreで個別購入すると、全てのライセンスについてAppleへマージンを支払うことになる。これには納得できない」といった感覚もあるだろう。


 ここまで述べた問題は、FileMaker Goという製品の良し悪しに起因するものではない。同製品のように、企業で組織的に活用できるiOSアプリには、宿命的ともいえる問題だ。早稲田大学の丸山不二夫客員教授は、2010年8月6日のクラウドコンピューティングセミナー内で、「Appleは米国ノースカロライナ州に、世界最大規模のデータセンターを建設中。今のところ用途は不明だが、iTunesのSaaS提供を見据えたものかもしれない」という見解を示した。iTunesがクラウドサービス化するだけでなく、例えば「iOS Enterprise Manager」といったような“クライアント/サーバ型”で複数のiOSデバイスを管理できるSaaSアプリケーションが提供されるまで、iOSデバイスの本格的な企業導入はお預けといったところかもしれない。

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