IntelのMcAfee買収にみるIT事業構造の変化Weekly Memo(2/2 ページ)

» 2010年08月23日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]
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クラウドに向けた垂直統合型事業モデル推進に拍車

 Intelがクラウドのメジャープレーヤーか、との異論もあろうが、クラウドを支えるシステムの多くに同社のプロセッサが使用されていることを考えると、今後その一角を占める可能性は十分にある。さらに同社はこのところ、セキュリティ以外のソフトウェアやモバイル分野の事業も拡充を図っており、クラウド市場の広がりに照準を合わせていることは明らかだ。

 今回の買収劇は、かつて米EMCが米RSA Securityを傘下に収めたケースにも似ている。RSA日本法人の山野修社長は、セキュリティ技術のインフラへの組み込みについてこう語っていた。

 「セキュリティ技術はこれまでインフラに対して追加する形で提供されてきたが、これからは最初からインフラに組み込んで提供し、より一層セキュリティレベルを上げるような取り組みを強化していかなければならない」

 RSAではその取り組みに向け、EMCグループの強みを生かして、EMCのストレージや同じグループである米VMwareのサーバ仮想化システムにRSAのセキュリティ技術を組み込む作業を進めているという。

 そうしたセキュリティベンダーの動きの一方、今回のIntelによるMcAfee買収が、ITベンダーの事業構造の変化をどう映しているのか。それはIntelが買収の狙いで「セキュリティソフトウェアとハードウェアの組み合わせを単一の企業が提供する」と明言しているように、垂直統合型の事業モデルを志向する姿勢にある。今後も同じ志向を持つITベンダーがますます増えてくるとみられる。

 とりわけ、企業向けのクラウド事業を総合的に推進する米IBMやHewlett-Packard(HP)、Sunを買収したOracleなどは、同事業に必要な道具立てをできるだけ自前で用意し、垂直統合型の事業モデル構築に注力している。これは日本の富士通やNECなども同じスタンスだ。今回のIntelによるMcAfee買収は、そうした垂直統合型の事業モデルを構築する中で、セキュリティがますます重要な存在になることを示したものともいえる。

 その意味では、McAfee買収はIntelにとって、クラウドに向けた垂直統合型事業モデル推進への強い意志を示したものだ。しかし、買収発表後のIntelの株価は3.5%下落した。その要因には、Intelそのものへの評価や投資額の大きさとともに、クラウドに向けた垂直統合型事業モデルに対する不確実性も影響しているように思われる。

 IntelはMcAfeeの株主総会と関係当局の承認を得られ次第、手続きに入り、今年内には買収を完了したい意向だ。果たしてIntelならではの事業モデルをどう具現化するか、注目したい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。




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