レノボとPC事業合弁に動くNECの思惑Weekly Memo

NECと中国のレノボ・グループがPC事業合弁に向けて交渉を進めているようだ。両社の思惑はどこにあるのか。さらにこの動きは何を意味しているのか。

» 2011年01月24日 08時25分 公開
[松岡功,ITmedia]

規模の拡大で価格競争力向上へ

 NECと中国のレノボ・グループがPC事業合弁に向けて交渉を進めていることが先週21日、一部報道で明らかになった。両社は共に報道された内容について「決定した事実はない」とのコメントを発表したが、複数の関係者の話によると、交渉が進められているのは事実のようだ。

 報道によると、2011年中をめどにNECの100%出資子会社でPC事業を担うNECパーソナルプロダクツに対し、レノボが50%超出資する方向で最終調整に入ったとしている。合併後もNECブランドは存続しつつ、両社でPCの開発や生産、資材調達を一体化していく構えだという。

 IDCの調査(2009年)によると、NECは国内PC市場でシェア首位の18.3%を握るが、世界シェアは0.9%で12位にとどまる。一方、レノボは中国でのシェアが約27%と首位で、世界シェアも8.2%と4位につける。両社が手を組むことによって、世界首位の米Hewlett-Packard(HP)などを追撃するという構図だ。

 NECがレノボとPC事業合弁に動く最大の理由は、規模の拡大にある。レノボのPC出荷量はNECの約10倍あることから、レノボの部品調達力を生かせば製品の価格競争力を大幅に高めることができる。

 一方、レノボにとってはNECの広範な販路などを活用し、4.6%にとどまる日本でのシェア(8位)を高めることが期待できる。レノボからすると、05年に米IBMのPC事業を買収して以来の大型M&A(合併・買収)となる。

 今回の動きの背景には、NECのPC事業が手詰まりになってきていることもある。同社のPC事業はこれまで30年余りにわたって国内最大規模を保ってきたが、海外展開をうまく進められなかったことから、世界市場で事業を展開する競合との出荷規模の差が広がるばかりとなっている。

 それでもさまざまなコスト削減努力によって、現状ではPC事業として何とか営業黒字を確保しているとみられるが、今後も薄利多売の消耗戦が続きそうなPC市場で従来のまま事業を継続するのは、収益的に限界を迎えつつあったといえる。

 こうした背景もあって、合弁といってもNECの子会社にレノボが50%超出資することになれば、「事実上の切り売り」との見方も出てくるだろう。だが、ここはひとつ、今回の動きをアグレッシブにとらえてみたい。

実現するか? 両社の戦略的互恵関係

 報道によると、両社の提携はサーバやITサービスでも協力する可能性があるという。複数の関係者の話も総合すると、NECとしてはレノボが中国に持つ大きな顧客基盤に対して、サーバやITサービス事業を展開する足がかりにしたいという思惑があるようだ。一方のレノボも、NECとの連携によってサーバやITサービスへと事業領域を広げることができる。

 ITサービスの延長線上には、資本規模が不可欠なクラウドサービスも視野に入ってくるだろう。166億ドルの売上規模(10年3月期)を持つレノボが、データセンターをベースとしたクラウドサービスに進出する可能性もある。その際の技術やノウハウをNECが提供するという協業の構図も描くことができる。

 折しもNECは、クラウドサービスなどを中心に、09年度で19.9%だった海外売上高比率を17年度に50%まで高める目標を掲げており、とりわけ中国では10年8月にIT大手の東軟集団と大連で合弁会社を設立するなど積極展開を図っている。今回のレノボとの提携が実現すれば、中国をはじめとしたグローバルな事業展開に弾みがつく可能性は大いにある。

 今後の行方については、報道によって「両社は今週にも詰めの協議に入るもよう」とも「詰めるべき点が多いため、合意までしばらく時間がかかりそうだ」ともみられているが、場合によってはPC事業合弁の話だけでなく、日中両国の外交になぞらえて広範な事業の「戦略的互恵関係」が打ち出されるかもしれない。

 両社の提携交渉が明るみに出た前日の20日、新聞各紙の夕刊一面トップには「中国GDP 世界2位に」「中国GDP 日本抜く」といった大見出しが踊っていた。中国のGDP(国内総生産)が2010年に日本を抜き、世界2位となることが確実になったからだ。まさに世界経済の歴史的な転機である。

 これによって、米国に日欧を加えた先進国主導から、伸び盛りの巨大市場を持つ中国のような新興国へと重心が移る流れは決定的となった。ITをはじめとした産業構造もこれから大きく変わっていくだろう。提携交渉を進める両社の動きは、そうした流れを象徴しているように見える。

 最後にあらためて強調しておきたい。レノボとの広範な提携が実現すれば、NECはPC事業というカードを切って海外事業展開のさらなる加速に打って出たことになる。だが、もしPC事業合弁で効果を上げられなければ、提携による相乗効果どころか、PC事業の売却を迫られることにもなりかねない。NECにとってレノボとの提携交渉は、PC事業の存続にとどまらず、今後の世界市場での生き残りをかけた正念場の動きといえそうだ。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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