ソフトバンクグループとオラクルが先週、企業向けクラウド事業での協業を発表した。そこから見えてきたオラクルの同事業に対するスタンスに注目してみた。
ソフトバンクグループのソフトバンクテレコムおよびPSソリューションズと米Oracleおよび日本オラクルが5月18日、企業向けクラウド事業での協業を発表した。
協業の骨子は、ソフトバンクテレコムが提供する企業向けクラウドサービス「ホワイトクラウド」において、オラクルの高速データベース専用機「Exadata」とクラウド向けアプリケーション基盤専用機「Exalogic Elastic Cloud(以下、Exalogic)」で構成されたPaaSサービス「ホワイトクラウド エンタープライズPaaS powered by Oracle」を提供するというもの。今夏よりβ版、秋より正式なサービス提供を開始する予定だ。
新サービスによって、ユーザーは投資リスクを抑制しながら、OSやデータベースの管理をすることなく即座に業務継続に必要なIT基盤を利用することができ、省エネ対策や事業継続計画(BCP)、ディザスタリカバリ対策などに素早く対応できるようになるとしている。
ソフトバンクグループでは、ボーダフォン買収後のユーザー増加に伴い、データ分析環境の整備が急務となったことから、2008年にExadataを導入。その結果、処理スピードが8倍に向上した一方、運用コストを半減できたという。その成果が新サービスにつながった。
今回の協業について日本オラクルの遠藤隆雄社長は同日開いた会見で、「オラクルはこれまでプライベートクラウド向け事業を中心に展開してきたが、今回の協業を機にこれからはパブリッククラウド向け事業にも力を入れていく。ソフトバンクグループは、これまでのオラクル製品の販売実績やExadataの国内顧客第1号としての経験・実績とともに、ネットワークに精通しクラウド事業にも本格的に取り組んでいることから、まさしくベストパートナーだと確信している」と強調した。
また、Oracleのマーク・ハード社長もビデオメッセージを通じて、「今回の協業により、世界最高のエンタープライズグレードのPaaSサービスを提供できるようになった」と協業の意義を語った。
新サービスのさらに詳しい内容については関連記事等を参照いただくとして、ここからは今回の協業から見えてきたオラクルのクラウド事業に対するスタンスに注目してみたい。
オラクルのクラウド事業に対するスタンスについては、日本オラクルの三澤智光常務執行役員が会見で、「プライベートクラウドを実現する製品ベンダー」「SaaSサービスプロバイダー」「パブリッククラウドプロバイダーを支えるテクノロジーイネーブラー」の3つに整理して説明した。
1つ目の「プライベートクラウドを実現する製品ベンダー」は、基本的に従来から変わらないスタンスである。ソフトバンクグループとの関係も、もともとはこのスタンスから始まった。
2つ目の「SaaSサービスプロバイダー」は、オラクル自身がSaaSサービスを提供するもの。例えば「CRM on Demand」がそれだ。
そして3つ目の「パブリッククラウドプロバイダーを支えるテクノロジーイネーブラー」が、今回のソフトバンクグループとの協業に象徴されるスタンスである。
ただ、パブリッククラウドでもPaaSサービスでいうと、米Savvisや米Amazon Web Servicesといったプロバイダーが、すでにOracleデータベースを適用したサービスを提供している。
今回の「ホワイトクラウド エンタープライズPaaS powered by Oracle」の新しい点は、ExadataとExalogicを適用したPaaSサービスであることだ。これは世界初の取り組みという。
ExadataとExalogicはオラクルが今もっとも力を入れている最新技術であり最新製品で、スタンスの1つ目の「プライベートクラウドを実現する製品ベンダー」としても、要となる商材となっている。
それだけに、業界の間では「ExadataとExalogicを適用したPaaSサービスは、オラクル自身がプロバイダーとして提供するのではないか」と見る向きもあったが、今回のソフトバンクグループとの協業によって、このサービス分野ではパートナーシップを軸とするオラクルのスタンスが明確になったといえそうだ。
オラクル自身がプロバイダーになるのでは、との見方を会見後、三澤常務に問うてみたところ、個人的見解と前置きして「当面はない」とのことだった。
また、このサービス分野でのパートナーシップの拡大について遠藤社長は、「私たちの目的はオラクルの技術や製品・サービスを使っていただくお客様を増やすことにあるので、パートナーシップも今後、拡大する可能性はある。ただ、まずは今回の新サービスの拡大に全力を挙げていく」と語った。
今回の「ホワイトクラウド エンタープライズPaaS powered by Oracle」は、日本市場に向けたサービスなので、海外ではすでにOracleデータベースを扱っているAmazon Web ServicesなどがExadataとExalogicを適用したPaaSサービスにも乗り出すとみられる。
PaaSサービスに向けては、米Microsoftが自社展開とパートナーシップの両面を模索している一方、クラウド専業の米Salesforce.comなどは自社展開を基本としている。PaaSはアプリケーション開発プラットフォームとして、今後クラウド市場での影響力が一層大きくなっていくとみられるだけに、クラウドサービスプロバイダーの顔を持つ有力ITベンダー各社がどのような事業スタンスをとっていくのか、注目されるところだ。
ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。
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