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» 2011年06月06日 08時00分 UPDATE

Weekly Memo:世界をリードする日本の生体認証技術

富士通とNECが先週、生体認証技術に関わる開発の発表を相次いで行った。この分野は日本が世界をリードしているといわれるだけに、大いに期待したい。

[松岡功,ITmedia]

手をかざすだけで100万人から個人を2秒以内に識別

 富士通研究所が6月1日に発表したのは、手のひら静脈情報と指3本の指紋情報を組み合わせ、100万人規模のデータの中から特定の個人を識別する処理を2秒以内に行えるようにした認証技術だ。

 同日会見を行った富士通研究所の富田達夫社長は、「手のひら静脈と指紋の両方の情報を利用して、100万人規模の識別を2秒以内に行う性能を実現したのは世界で初めて」と胸を張った。

会見に臨む富士通研究所の富田達夫社長(左)、松田喜一フェロー(中央)、新崎卓主管研究員 会見に臨む富士通研究所の富田達夫社長(左)、松田喜一フェロー(中央)、新崎卓主管研究員

 この新技術を利用することで、入退室管理用の小規模なものから社会基盤システム向けの大規模なものまで、身ひとつで個人認証を行う生体認証システムを、利用者の規模に合わせて構築することができるという。また、既存の指紋センサーに手のひら静脈認証を追加するだけで容易に導入することも可能としている。

 生体認証技術は、企業からの情報漏えいや金融機関での「なりすまし」による被害を防止する手段として普及しつつある。身ひとつで利用できる利便性から今後もさらに普及が進むと期待されているが、これから行政サービスなどにも広がっていくとすると、100万人から1億人規模の不特定多数の中から特定の個人を高速・高精度に認証する技術の実現が必要となってくる。

 ただ、そこには大きな課題がある。例えば、金融機関での認証のようにICカードに登録された特定の生体情報であるかないかを判断する場合は、1種類の生体情報だけを利用する1対1の認証方式でも十分だ。

 しかし、多数の人の中から特定の個人を認識する1対Nの認識においては、母数が100万、1000万と多くなると、精度の問題により1種類の生体情報だけでは他人との違いが明確に区別できない場合がある。1対Nの認証では全ての登録データと突き合わせた認証を行うため、1対100万での認証精度は1対1に比べて100万倍高い精度が必要とされる。

 このため、複数の生体情報を組み合わせた認証が開発されているが、その場合、それぞれの入力作業が別々になると利便性が低下するのが課題となる。例えば、手のひら静脈認証と虹彩認証を組み合わせた場合には、手と目を別々にかざす必要があり、簡単に利用することができなくなる。さらに1対100万の認証では、全部の登録データと突き合わせるため、従来の技術では認証処理に数十分かかってしまう。

 新技術は、そうした課題の克服を目指して開発された。

 富士通研究所は今回開発した主要な技術として、(1)採取方式の異なる手のひら静脈と3つの指紋に対して、手を一度かざすだけで安定的に両情報を取得する技術、(2)100万人から識別対象データを高速に絞り込むための技術、(3)絞り込んだデータを対象に識別処理を行い、手のひらと3つの指紋の識別結果を合わせて判定することにより、正確かつ安定的に1人を特定する融合判定技術、(4)識別処理の並列効果を高める技術、の4つを挙げた。

 同社によると、新技術はすでに実用化できる水準にあり、今後も改良を重ねて2011年度中に1000万人規模の認証を可能にしたいとしている。

手のひら静脈と指3本の指紋を組み合わせた個人認証 手のひら静脈と指3本の指紋を組み合わせた個人認証

手のひらサイズの年齢・性別推定センサーを実現

 一方、NECが5月31日に発表したのは、同社が開発した顔認識技術を利用して、自動販売機などを利用する人の年齢や性別を推定できる、手のひらサイズのカメラ一体型超小型センサーの試作機だ。

 このセンサーを自動販売機や売店のPOS端末、ATMなどに組み込むことにより、事業者は従来困難だった購入者の年齢層や性別などの人物データをリアルタイムかつ高い精度で収集できるようになり、マーケティングに利用することで新たな商品開発やサービス向上が期待できるとしている。

 現在、一部の自動販売機に年齢・性別推定システムが導入されているが、複雑なデータ処理のために高性能なコンピュータが必要であり、各種機器へ組み込むには、より小型で低消費電力のセンサーが求められていた。

 今回の試作機は、そうした課題の克服を目指して開発された。これにより、パソコンやサーバを使った従来の顔認識システムに比べて、同社の試算で約100分の1の小型化、約50分の1の低消費電力の実現を見込んでいるという。

 同社では今後も開発を進め、このセンサーとデータセンターをネットワークでつなぎ、データマイニング機能と連携したクラウドサービスとして2011年度内をめどに商品化を目指す構えだ。

 生体認証技術は、日本が得意技とする最先端技術の1つである。富士通、NECともこの分野では先陣を切り、さまざまな認証システムを商品化して世界市場で実績を上げている。今回、両社が発表した新技術も、それぞれ大きなポテンシャルを感じる。ぜひとも日本メーカーの気概を世界に示してもらいたい。

プロフィール 松岡功(まつおか・いさお)

松岡功

ITジャーナリストとしてビジネス誌やメディアサイトなどに執筆中。1957年生まれ、大阪府出身。電波新聞社、日刊工業新聞社、コンピュータ・ニュース社(現BCN)などを経てフリーに。2003年10月より3年間、『月刊アイティセレクト』(アイティメディア発行)編集長を務める。(有)松岡編集企画 代表。主な著書は『サン・マイクロシステムズの戦略』(日刊工業新聞社、共著)、『新企業集団・NECグループ』(日本実業出版社)、『NTTドコモ リアルタイム・マネジメントへの挑戦』(日刊工業新聞社、共著)など。


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