ICT最先端を披露した富士通研究所の心意気Weekly Memo

富士通研究所が先週、これまで研究開発に取り組んできた最新技術の説明会を行った。披露したのは15テーマ。日本を代表するICTメーカーとしての心意気やいかに。

» 2011年10月17日 08時00分 公開
[松岡功,ITmedia]

データセンターの消費電力を4割削減する技術を開発

 富士通研究所が10月13日、2011年度の研究開発戦略とともに、これまで研究開発に取り組んできた最新技術の説明会を行った。

 同所では昨年来、将来を見据えた戦略的な研究分野として「ヒューマンセントリックコンピューティング」「インテリジェントソサエティ」「クラウドフュージョン」「グリーンデータセンター」を掲げ、これに「基盤技術」を合わせた5分野において、最新技術の研究開発に取り組んでいる。

 2011年度の研究開発戦略としては、そうした最新技術について要素技術開発からコンセプト検証・実験のフェーズへと展開を図るとともに、戦略的な研究分野として新たに「ものづくり革新」を追加。さらにグローバルな新規ビジネス創出などにも取り組んでいく構えだ。

 説明会では展示を交えて、最新技術15テーマの成果が披露された。いくつか興味深いテーマを紹介しておこう。

 まずグリーンデータセンターの分野では、「データセンター全体を丸ごとモデル化し、サーバの負荷集中や空調制御によって消費電力がどのように変化するか瞬時に検証できるシミュレーション技術を開発した」と、プレス発表を兼ねて説明があった。

 それによると、データセンターの省電力化には、ICT機器や空調などの設備を含めた総合的な対策が必要となるが、刻々と運用状況が変わる稼働中のデータセンターにおいてICT機器や空調などの運転状態を変更した際に、どのように全体の消費電力に影響してくるかを予測するのはこれまで困難だった。

 そこで今回発表の技術では、建屋内における熱の流れを従来と比べて1000倍以上高速に計算できる技術と、稼働中のデータセンターのICT機器や空調などの設備を丸ごとモデル化する技術を開発し、消費電力の正確な計算を実現したという。

 これにより、稼働中のデータセンターに適用する前に、どのような対策が省電力に効果があるかを検証することが可能となり、データセンター全体の消費電力を最大40%削減することも見込めるとしている。こうした技術は「世界で初めて」と力を込める同所では、今年度内にこの技術を富士通のデータセンターで検証し、ソリューションとして実用化につなげたい考えだ。

 データセンターの消費電力量の内訳 データセンターの消費電力量の内訳

15テーマの最新技術で見せたメーカーの心意気

 また、基盤技術の分野では、「スマートフォンの画面を見ることなしに、音声だけでさまざまな情報を取得できる音声インタフェース技術を開発した」と、これもプレス発表を兼ねて実演を交えた説明があった。

 それによると、スマートフォンなどのモバイル端末を見ず、触れずの状態でニュースなどの情報サービスを受けるためには、音声による入出力がスムーズに行われることがポイントとなる。

 例えば、システムがニュースを正しく読み上げたり、ユーザーが発した言葉を正確に認識するためには、時事用語など時代とともに増えていく新しい言葉にも正しく対応する必要がある。また、ユーザーが発した言葉に同音異義語があったとしても、その場面で正しい言葉を理解する必要がある。

 そこで今回発表の技術では、それらの課題を解決し、アイズフリー・ハンズフリーの状態で、ユーザーが気になる言葉を話すだけでそれに関連した情報を次々と引き出し、システムが読み上げる新しい音声インタフェースを開発したという。

 これにより、例えばシステムが読み上げたニュースのヘッドラインから気になった言葉を発すると、さらにそれに関する詳細記事をシステムが読み上げるといったユーザービリティが提供できるとしている。同所ではこの技術をモバイル端末向けのクラウドサービスのユーザーインタフェース機能として2012年度中の実用化を目指し、今年度中に実証実験を行うとともに、さまざまな利用シーンへの適用を図っていく考えだ。

 このほか、ヒューマンセントリックコンピューティングの分野では、「必要なときに必要なアプリケーションとデータをスマートフォンなどのモバイル端末に送り込んで自動実行させ、使用後に自動削除する技術」、「シンクライアントの画面データ転送量を従来に比べて10分の1に圧縮し、スマートフォンなどのモバイル端末で高速表示する技術」を披露。

 インテリジェントソサエティの分野では、「ソーシャルメディア上の書き込みから社会で起きた出来事を自動抽出する技術」、クラウドフュージョンの分野では、「プライバシーや機密データを秘匿化し、ユーザー環境に合わせて他社クラウドとも安全に連携できるゲートウェイ技術」、基盤技術の分野では、「手のひら静脈認証と指紋認証を融合した高速・高精度な個人認証システム」や「テラビットイーサネット時代に向けた高効率光通信技術」などが紹介された。

 富士通の研究開発機関である富士通研究所が生み出した最新技術は、日本を代表するICTメーカーとしての心意気を示したものといえよう。キーワードとして散りばめられている「クラウド」「スマートフォン」「ソーシャルメディア」などは米国が発信源となってグローバルに拡大してきたが、それらを応用し進化させていく技術開発においては、日本のICTメーカーにも今後、大いにチャンスがあるはずだ。さらに新たな発想の創出も合わせて、奮闘を期待したい。

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