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» 2012年02月17日 11時01分 UPDATE

導入事例:電子カルテの閲覧・記入はiPadやiPod touch、患者の保護と業務効率の改善を実現した意外な方法

モバイル端末の業務活用が広がる中、北海道社会保険病院は“意外な”アプローチによって、電子カルテをiPadやiPod touchから利用できる仕組みを実現している。

[國谷武史,ITmedia]

 スマートフォンやタブレット端末といったモバイル機器の業務活用が広がる昨今、医療の現場では電子カルテをこうした機器で活用したいというニーズが高まっている。病床数358床の北海道社会保険病院(札幌市豊平区)は、iPadやiPod touchで電子カルテを利用する仕組みを構築し、2月から運用を開始した。既存システムにほとんど手を加えることなく、モバイルを活用する新たな環境を実現している。

hokkaido001.jpghokkaido002.jpg 札幌市内中心部に近い北海道社会保険病院。地域の中核医療を担っている

電子カルテ端末がボトルネックに

hokkaido003.jpg システム管理室の練生川和弘係長

 北海道社会保険病院は、2008年に電子カルテシステムを導入。入院患者の診察などの際に電子カルテの閲覧・書き込みをするための端末を15台保有している。この端末は医療用ノートPCや周辺機器、コード類など伴い、カートに乗せてナース室や診療室、病室の間を移動する。システム管理室 係長の練生川和弘氏によれば、この端末の運用では大きく3つの課題を抱えていた。

 1つ目の課題は端末の携帯性にあった。カートに乗せて運ばなければならないという煩雑さに加え、移動の際にカートの車輪から大きな音が発生して病棟内に静粛性を保つことが難しくなる。ケーブル類もなるべく取りまとめてはいるが、ケーブルが患者に絡みついて、患者が転倒してしまう危険性をゼロにすることが難しかった。

hokkaido004.jpg 電子カルテシステム端末。カートでの移動には周囲に気を配る

 2つ目の課題はノートPCのバッテリだ。練生川氏によれば、バッテリはフル充電しても15〜30分程度しかノートPCを駆動できない。回診などには1時間程度かかる場合もある。常に電源ケーブルを持ち歩く必要があるが、患者を転倒させてしまう危険性がある。さらに、故障したバッテリの交換などのコストが年間70万円に上る。導入からの4年間で280万円というコストは無視できないという。3つ目の課題はカートの置き場所。一定のスペースを必要とすることから、看護師の業務の導線を妨げてしまうことがあった。これらの課題の解決で注目したのが、モバイル機器の活用である。

 まず携帯性の課題ではモバイル機器にすることで看護士が手で持ち歩けるようになる。使用しない時でもデスク上に置けるので、ナース室内を占拠するようなことがない。また医療用ノートPCは1台30万円ほどするが、iPadであれば数万円台で購入できる。「ノートPCが故障した場合、修理をするにしても高いコストがかかるが、iPadなら買い替えても少ないコストで済む」(練生川氏)という。バッテリの駆動時間も、練生川氏がiPadで検証したところでは通常利用で8時間程度、フル稼働でも5時間程度利用できた。

 ただし、モバイル機器を導入するだけでは電子カルテを利用できない。電子カルテをモバイル機器で利用するための方法は幾つかあるが、「メーカーによって機能に差があり、大掛かりなシステム改修が必要になることもあった」と練生川氏。

 北海道社会保険病院でのモバイル活用プロジェクトは、端末内に患者の個人情報が残らないなどセキュリティを確保しつつ、既存の電子カルテシステムにできるだけ手を加えないという、従来にはあまり例がないものとなった。

電子証明書とモバイル管理ツールの組み合わせ

 モバイル機器の活用を検討し始めた当初、北海道社会保険病院が要求する仕組みを実現できる方法はあまりなかった。周囲に相談を重ねていく過程で対応を表明したのが日本ベリサインであったという。日本ベリサインは、モバイル機器の運用管理製品を手掛けるアイキューブドシステムズと協業して、同社のクラウドサービスとネットワーク認証用の電子証明書の発行・管理サービスを組み合わせた「ベリサインMDM powered by CLOMO」を提供している。

 日本ベリサイン IAS製品本部 上席部長の坂尻浩孝氏は、「病院から依頼を受けて、手探りで検討を重ねながらモバイル機器を活用する仕組みを開発した」と話す。

 構築した仕組みではiPadやiPod touchから無線LAN経由で電子カルテ端末にリモートデスクトップ接続を行って、電子カルテを利用する。接続できるのは事前に電子証明書をインストールしたiPadやiPod touchのみ。iPadやiPod touchはベリサインMDM powered by CLOMOで管理する。“枯れた”技術であるリモートデスクトップ接続の活用がポイントになった。

hokkaido005.jpg 病室での利用イメージ。iPadとバーコードリーダーを連携させ、患者のバーコード情報を読み取って電子カルテの情報を相違がないか確認する。実際の処理が行われているのは、RDPで接続している先の既存のPC端末。レスポンスは速く、入力操作でストレスを感じることはないという(編集部注:撮影では患者さんの立場を職員の方に再現していただきました)
hokkaido006.jpg ナースステーションでの業務の様子。デスク上の空きスペースで電子カルテへのデータの入力ができる

 iPadやiPod touchは、RDPやBluetooth接続する周辺機器との連携機能以外は利用できないようになっている。万が一iPadやiPod touchを紛失しても、ベリサインMDM powered by CLOMOを通じてシステム管理室が遠隔から端末の設定を無効にしたり、データを消去したりできる。システム管理室の工藤浩之氏は、「仮想デスクトップのような大掛かりなシステムを新たに構築しなくて、既存システムのままで病院がまず必要としている環境を実現できた」と述べている。

 システム管理室がモバイル化の検討を始めたのは、2011年6月のこと。11月ごろまで具体的な要求事項を検討し、導入を開始した。2012年1月にテスト運用を行って、2月に本格運用に開始した。現在は6つの病棟で10台のiPadやiPod touchを利用している。

 モバイル化の導入効果について練生川氏は、「医療現場の業務環境を大きく改善できたことに加え、システム管理の立場ではコスト削減ができた点も大きい。今回の仕組みで約70%のコスト削減を達成できた」と話す。これまでに例が無い取り組みとなったが、「ユーザーがベンダーに積極的な働きかけを行っていくことが重要」という。

 今回の施策は、本格的なモバイル活用のファーストステップという位置付けでもあるようだ。「将来は仮想化技術の導入なども検討していきたい」と練生川氏。ベリサインの坂尻氏は、「今回の経験を踏まえ、医療分野に適したモバイルソリューションの開発をさらに進めたい」と述べている。

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