遠隔地を結ぶ仕組みで新市場を創出 ブイキューブ田中克己の「ニッポンのIT企業」

企業がコスト削減に躍起になったリーマン・ショック以後、ブイキューブではWeb会議やオンラインセミナーなど「ビジュアルコミュニケーション」システムへの引き合いが増大した。「コミュニケーションがさまざまな問題を解決する」と間下社長は意気込む。

» 2012年03月01日 08時00分 公開
[田中克己(IT産業ウオッチャー),ITmedia]

 Web会議システム市場でトップシェアを誇るブイキューブは、この1年でユーザーを1000社近く増やし、約3200社の顧客を抱える。売り上げもこの数年、年率30〜40%で伸びており、2012年度(12月期)は約30億円を見込む。機能拡充と用途拡大に向けた先行投資や開発を積極的に推し進めた成果でもある。

 1977年生まれの間下直晃社長は、動画と音声を組み合わせたWeb会議システムの技術を、ビジュアルコミュニケーションへと広げて、さらなる成長を遂げる計画を練る。「離れた場所にいる人を結び付ける」(同)ビジュアルコミュニケーションで、問題解決を図れる利用分野を開拓していく考えだ。

経費削減のニーズに合致

 ブイキューブは、間下社長が慶應義塾大学在学中の1998年にWebシステム開発を手掛ける目的で設立した。2003年には米国法人を設立し、携帯電話系アプリケーションの開発にも乗り出した。ところが、間下社長が頻繁に日米を行き来したことで、事業に支障をきたし始めた。米国に出張すると、日本のビジネスが停滞する。日本にいると、米国のビジネスが前に進まないのだ。

 そこで、テレビ会議システムの導入を検討する。日米間のコミュニケーションを円滑にするためだが、「当社の事業規模で、当時1000万円もするシステムを購入するのは難しい」(間下社長)となり、パソコンとインターネット技術を活用したWeb会議システムを社内で開発することにした。社員の要望を聞きながら機能を盛り込んでいったところ、経費削減のニーズに応える商品が作れるということが分かってきた。

 ブイキューブは2004年にWeb会議システム「V-CUBE」を商品化し、ライセンス販売とASP/SaaSサービスを開始した。2008年には導入効果が一目で分かる「ECOメーター」を用意する。出張にかかる交通費や移動時間、二酸化炭素排出量がどの程度削減できるかを算出し、数値をグラフ表示するもので、CSR(企業の社会的責任)活動にも役立つ。

 Web会議システムの導入企業は、着実に増えていった。2010年度に約700社、2011年度には約1000社のユーザーを新たに獲得し、市場シェアは約20%になった。ASP/SaaSに限定すると、30〜35%になるという。「新規ユーザーの95%はサービス型を選択する」(間下社長)ほど、SaaSの利用者が増えており、その比率は2010年度に約6割、直近では8割超を占める。ソフトウェアのインストールなど煩わしい作業が必要ない、最新機能を常に使える、などのメリットがあるからだろう。海外を含めた企業間のコミュニケーション手段として導入するユーザーもある。

 引き合いが活発化したのは2008年のリーマン・ショック後で、経費削減の一環から出張を抑制したい経営者らの支持を得たからだろう。映像や音声などのマイナーチェンジを含めて、機能強化をほぼ毎月実施しているし、導入しやすい料金設定にもした。中小企業がSaaS型を利用する場合の月額料金は5万円から6万円程度だという。例えば、毎週あった東京〜大阪間の出張を月1回にするだけで、費用対効果はすぐに出てくる。業務プロセスの改善に踏み込めば、さらなる経費削減を期待もできるという。

ビジュアルコミュニケーションの普及率は数%

 ブイキューブは2006年、ビジュアルコミュニケーションに軸足を移した。Web会議システムに加えて、動画と音声を駆使したオンラインセミナーなどの遠隔教育、遠隔医療・診断、営業支援などへと広がりを確信したからだろう。受託ソフト開発に頼らなくても、収益を確保する見込みがたったということでもある。

 例えば、企業が最大1万拠点に同時配信できる機能を持つオンラインセミナーを新卒採用に生かす。Web登録した数多くの学生に一斉に企業紹介などを行って、ミスマッチングを減らす。オンラインセミナーを使えば、企業が個人投資家に最新情報や経営方針を説明するIR活動の機会を容易に設けられる。遠隔診療への活用も期待される。例えば、ある地域に産婦人科の専門医が不足したら、他地域の専門医が遠隔から診察する。こうした実証実験は始まっており、法整備や規制緩和が進めば遠隔診断・診察は広がるとみられている。こうした医療向けなど業種に特化したサービスを揃えていく計画もある。

 とはいっても、「ビジュアルコミュニケーションの普及率はまだ数%だろう」(間下社長)。市場開拓の余地はいくらでもあるので、販売網の整備や協業の推進などの体制を整えている。大塚商会やリコージャパン、キヤノンマーケティングジャパンなど販売代理店は100社以上になり、間接販売はすでに直販を上回っている。

 協業も増えている。2011年11月にはポリコムジャパンと提携し、同社のビデオ会議システムとWeb会議システムを相互接続して使えるようにした。翌月12月にはグループウェアのサイボウズと提携し、同社のクラウド基盤を使ったサービス提供も始めた。より多くの企業との接点を持つためでもある。

 海外展開も模索する。「国内の市場成長とシェアから考えると、年商100億円は可能」(間下社長)だが、さらなる成長には海外市場の開拓も必要になる。現在、中国やマレーシア、タイなどアジアでの販売活動を始めている。2009年12月にはマレーシアに現地法人も設立した。目下のところ、アジアの売り上げは1億円程度だが、「数年後には400万ドルから500万ドルにしたい」(同)と意気込む。


一期一会

 「新しい市場を創出する」。ブイキューブは受託ソフト開発を展開する中で、2004年にWeb会議システムを開発、2006年にその技術をベースにしたビジュアルコミュニケーション市場の開拓に全力を注ぐことをした。間下社長は「コミュニケーションによって、解決できるテーマはたくさんある」と期待し、商品開発を積極化した。その一環から2009年に米インテルの投資部門から、2011年には国内のベンチャーキャピタルなどから資金を調達した。「成長には、決断力と資金調達力が重要」(間下社長)からだ。

 しかも、「Web会議システムは装置産業化している。ベンチャーが新規に立ち上げるには10億円以上の投資をしなければ、当社には追いつけないだろう」。

 投資回収に時間もかかるということ。ブイキューブも、SaaSなどサービス化に投資を振り向けた2009年度と2010年度は2億円超の赤字を出した。だが、2011年度はストック型へ移行したことで、約1億円の営業利益を確保したという。「利益率30%から40%を目指す」(同)。

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