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» 2012年07月23日 12時05分 UPDATE

IT革命に乗り遅れた経営者たちよ

ITの発展によってビジネスを取り巻く環境が大きく変化している一方で、マインドセットをまったく変えられない企業経営者が少なくないと夏野剛氏は指摘する。

[伏見学,ITmedia]

 「10年前と比べてITは社会でこれだけ進展しているのに、多くの日本企業はセキュリティポリシーなどがまったく変わっていない」――。こう警鐘を鳴らすのは、慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏。クラウドコンピューティングやモバイル、ソーシャルメディアなど新たなITツールの登場によって働き方が多様化する中、その環境の変化にマインドセットを変えられない経営者やリーダーが足かせとなり、社員がITを活用できていない日本企業が多く見られるという。

「社内PCでソーシャルメディア利用を禁止したり、ECサイトへのアクセスを制限したりする企業がいる。その結果、社員はこっそりと私物のスマートフォンで閲覧しているのが現状だ」と夏野氏。逆にこうした状況を作り出すことで、業務効率の停滞を招いているのだという。

3つのIT革命

慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏 慶應義塾大学大学院 政策・メディア研究科 特別招聘教授の夏野剛氏

 この10年を振り返ると、3つのIT革命があったと夏野氏は説明する。1つ目は「効率革命」だ。ビジネスのフロントラインがインターネットへ展開し、リアル市場とネット市場が融合することで、顧客接点が大きく変化した。例えば、航空チケットの予約を見ると、今や国内予約の約7割がWebからのオーダーだという。10年前は代理店営業やコールセンターが顧客接点だったが、ビジネス環境は大きく変わったのである。「インターネットによって、大きなビジネスから小さなビジネスまでチャンスが広がった。もはやリアルとネットを分ける意味はない」と夏野氏は力を込める。

 2つ目は「検索革命」である。個人の情報収集能力が飛躍的に向上し“にわか専門家”が増大したほか、インターネット検索によって企業の研究プロセスにも変化がもたらされた。「かつては研究を行う際に、まずは先行研究に関する多くの本を読んで知識を収集、蓄積したが、今はネットで検索すればすぐに情報を得ることができる。さらに、研究者は研究発表をWebサイトに掲載し、すべてを公開するようなオープン化が進んでいる。自分の研究が発展するためには、成果を隠しておくような必要はなくなったのだ」と夏野氏は話す。

 最後は「ソーシャル革命」だ。ソーシャルメディアの登場によって、個人の情報発信力が強まり、TwitterやFacebookによる「共振」が世界中で見られるようになった。これはネットに新しいツールが出てきた以上の意味合いを持つという。

「これまで人類は、誰かがある物事を試して、それを他者と共有し、知識として蓄積されたものを、世代を超えて、長い年月をかけて伝承してきた。こうして文明を作っていた。今では誰かの体験はあっという間に不特定多数の人々にシェアされるようになった」(夏野氏)

 このように、ITによって個人の進化スピードが一気に加速している一方で、この10年間でインターネットすら使ったことのない日本企業の経営者やリーダーがいるのは時代錯誤ではないかと夏野氏は指摘する。

リーダーはより辛くなる

 また、こうした現在においては、従来型の企業組織では通用しないという。個人能力の最大化によって、100人の平均的な人間よりも1人の“オタク”の方が強い影響力を持つようになった。夏野氏は「同じタイプの人間ばかり作っていたら組織が弱くなる。さらに、経営トップは自分の意思を社内外の何万人にも直接伝えられる時代となり、組織階層の無意味化が進行している」と説明する。今後は、個人の力を最大化する組織が必要であり、組織構造がフラット化せざるを得ないと見ている。

 その中で、求められるリーダーの役割とは何か。夏野氏は、リーダーは「利害調整型」から「率先垂範型」になるべきだと説く。「さまざまな意思決定や判断を迫られる中、自らの考え方がしっかりしているリーダーが必要。これからますます、リーダーの役割は重く、辛いものへと変わっていくのだ」と夏野氏は力を込めた。

 ※本記事は、7月19日に都内で行われた「IBM Impact 2012 Japan」の基調講演を基に作成。

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